サッカー大国・ドイツを覆う危機感…子どもたちに「とにかく、いっぱいボールに触れさせる」ことで判明した「衝撃の効果」
ドイツサッカー連盟(DFB)公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)をもち、フライブルガーFCでU-16監督やU-16/U-18総監督を務めるなど、ドイツでの選手育成・指導歴が20年を超えるサッカー指導者にしてジャーナリストの中野吉之伴氏。 スポーツをはじめ、海外での教育・育成のあり方や仕組みづくりに関心をもつ中野氏は今回、ドイツサッカー連盟とドイツプロコーチ連盟(BDFL)の共催で、毎年7月に3日間にわたって開催されている国際コーチ会議に参加した。 ドイツサッカー連盟のA級ライセンスとプロコーチライセンス(S級相当)の保持者のみが参加できるこのカンファレンスで、いったいどんなことが語られたのか。 最適な体づくりと健康管理のための「栄養学」、コーチ一人ひとりの個性を活かした「指導者育成」、育成年代のための「環境づくり」の3テーマに分けてリポートしてもらった。
育成責任者の熱い言葉
サッカー大国の一つであるドイツでは、子どもたちのサッカー環境を改善しようという取り組みが続けられている。 今回のドイツサッカー協会とドイツプロコーチ連盟共催の国際コーチ会議では、ドイツサッカー協会育成ダイレクターのハネス・ヴォルフが、「なぜ子どもたちのサッカー環境を改革する必要があるのか」をテーマに熱弁をふるっていた。彼の主張には、学術的に確かな裏付けと危機感とが含まれていた。 「ドイツにおいて、サッカーは今も変わらず大人気のスポーツです。子どもたちがサッカークラブに登録する数は、ありがたいことにいまも非常に多い。 しかし、子どもたちは本当に満足がいくだけのプレー時間を得ているでしょうか? ケガにつながるような“やりすぎ”にならないことは当然ですが、プレー機会が少ないのもまた問題なのです」
「ボールに触れる時間」をどう増やすか
練習頻度や時間をやみくもに増やせということではなく、練習や試合における1人あたりのアクション頻度をどのように作り出すかがポイントだと、ヴォルフは強調する。 「1回90分間の練習のうち、子どもたち一人一人が実際にボールに触っていられる時間や、アクションに関わっていられる頻度はどのくらいあるでしょう? 黙って指導者の話や説明を聞く時間が多くを占めていないでしょうか? じっと自分の番が来るのを待たなければならない時間は、果たして最適なものといえるでしょうか?」 育成年代における日々のトレーニングは、長期的な観点から、確かな戦略をもとに計画されなければならない。指導者からみれば、そうした戦略に基づく全体像からの、毎日のトレーニング計画のプランニング能力が要求される。 子どものころに始まり、育成年代が一段落つくU19の時期までに、選手個々のポテンシャルを引き出す取り組みが十分なされていなければ、彼らが大人のサッカーに身を投じるための指導を怠っていたということにもなりかねないからだ。 では、具体的にどう取り組めばいいのか?