“強豪”メキシコを撃破!なぜ久保ー堂安のホットラインが機能したのか?
「前傾姿勢になってくると視野が狭くなって、周囲の味方を上手く使えずにボールを失うシーンがすごく多かった」 思い悩む堂安に当時の長谷川健太監督はバルセロナ五輪の陸上短距離代表で、清水エスパルスでフィジカルコーチを務めた実績を持つ杉本龍勇氏を紹介した。主戦場がヨーロッパへ変わったいまも、杉本氏による走り方改革は続いている。 「僕の場合は、背中の肩甲骨周りや腰周りの筋肉が硬かったんですね。なので、そこを柔らかくほぐしたりすることで前傾姿勢が少しずつ立つように変わる、というところからアプローチをはじめて、少しずつですけど形になってきているのかな、と」 こう振り返る堂安が4年以上もの歳月をかけて肉体を改造してきた成果が、東京五輪の大一番でも久保への絶妙のアシストとなって発揮された。杉本氏を引き合わせてくれた長谷川監督へ、堂安はいまでも感謝の思いを忘れていない。 視野の広がりはプレーに余裕を持たせ、もともと抱いていた自信をさらに膨らませる相乗効果をもたらした。今年3月まではMF三好康児(ロイヤル・アントワープ)が背負ってきた「10番」を6月の招集時から託され、待ち焦がれてきた東京五輪へも臨んでいるのは、U-24代表に関わる全員から大黒柱にふさわしいと認められた何よりの証となる。 「僕に対して常に緊張感を与えてくれる背番号だし、僕の成長をさらに手助けしてくれれば、とも思っている。ただ、僕自身が理想とする『10番』像にはまだまだほど遠いし、東京五輪の期間中に少しでも僕の『10番』像に近づきたい」 背番号の変更をポジティブに受け止めていた堂安が、理想へ近づくために掲げる条件がチームの勝利へ貢献し続ける自分の姿となる。だからこそ、VARの介入をへて日本にPKが与えられた前半11分の場面では、堂安はボールを抱えて離さなかった。 果たして、左へダイブしたオチョアに対して、堂安はど真ん中のコースを撃ち抜いた。満点の度胸に導かれた東京五輪での初ゴールは、メキシコのエンジンがかかる前にリードを広げ、終わってみれば決勝点となる貴重な一撃となった。 後半23分にはMF田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)の縦パスに反応し、一直線に相手ゴールへと迫った。必死に追走してくるDFヨハン・バスケスのプレッシャーにも動じず、最後はファウルで止めたバスケスに一発退場が宣告された。走り方を変えてきた努力が、日本を数的優位に立たせる意味でも花開いた。 東京五輪前で最後の強化試合となった17日のU-24スペイン代表戦では、久保のアシストから左足で豪快なゴールを優勝候補に見舞った。メキシコ戦では逆の形でチームに勢いをもたらした堂安は、試合を重ねるたびにまばゆい輝きを放つ久保とのゴールデンコンビを「お互いに特に話さずとも、共通認識ができている」と説明したことがある。 「タケに預ければボールが帰ってくるというか、タケに預ければチームのプラスになるプレーをしてくれると信頼しているし、逆にそういう信頼をタケから僕自身も感じている」