絆はゆるくていい? 自殺の少ない町から探る生きやすさのヒント #今つらいあなたへ
こういった地域に根付く相互扶助組織は、強制加入で一度入ったら抜けることが難しいケースも多いが、朋輩組は入るのも抜けるのも自由で、会費を払うか払わないかも本人の意思で決められるそうだ。リーダーが固定化されず、これといった戒律もなく、とにかく風通しがいいという特徴がある。三浦町長も朋輩組の一員である。 「そういった複数の団体にみんな何かしら関わっているんです。それによって、ひとつの集団の中で『あの人ってこういうところがあるよね』とネガティブな話になっても、周りの人たちが『いやいや、こういういいところがある人だよ』と言ってくれ、人物評価がひとつに偏らない。それに逃げ道がたくさんあるから、人と違うことを言って弾き出されるという心配をする必要もないんだと思います」
「『悩みごと』は深刻になりすぎず、軽く聞く」
岡さんの研究では、本音だけでなく「言いづらい悩みごと」も表に出しやすい空気があることが、データで裏付けられている。 旧海部町エリアの住民と、同じ徳島県内で自殺率の高い町の住民に「悩みを抱えたとき、誰かに相談したり助けを求めたりすることに抵抗があるか」を調査したところ、「抵抗がない」と答えた人の割合は自殺率の高い町が47.3%に対して旧海部町は62.8%だった。 悩みを開示しやすい理由はなんだろうか。そのひとつが「悩みを聞く側のスタンスによるものではないか」と、海陽町のNPO法人あったかいようをはじめ多数のボランティア団体に関わって居場所づくりをしてきた笠原まりさんは言う。
「悩みごとは深刻化する前に早めに相談したほうがいいとわかっていても、本人としては『他の人に話されたらどうしよう』など不安を感じて言えないケースが多い。だからどうやって『この人なら話してもいいかな』と思ってもらうかを考えなくてはいけませんが、旧海部町の人たちはその気持ちをうまく引き出していると思います。『悩みを聞いたからには最後まで責任を持たないといけない』といった過剰な気負いがなくて、『まあ、聞いたるから、ちょっと考えをまとめて話してみ』というテンションで、深刻になりすぎず軽く聞いているように見えるんです」 悩みを口にするハードルの低さは、町並みも関係しているのではないかと笠原さんは続ける。