津波から助かった大川小の哲也さん(22) 11年間の苦悩と、母校や妹への思い #知り続ける
これまで、妹が死んだという現実と向き合うことはどちらかというと避けてきた。しかし、昨年8月に広島県の原爆ドームを訪れた際、被爆者の寺前妙子さん(91)が15歳のときに亡くした妹について、エピソードを交えながら話をする姿が深く印象に残った。そして、2月の舞台でピアノ演奏をプログラムに盛り込んだ。 「自分も妹のことをもっと話したいと思ったのかもしれません」
孤立している子の力になりたい
哲也さんは「Team大川」とは別に、学校や社会から孤立している子どものサポートをして、温かいコミュニティーを作りたいと考えている。 哲也さん自身、大学を中退する前後は孤立して苦しんだ。そんなときに支えになってくれたのが、「みやぎ青少年トータルサポートセンター」の佐藤秀明さんや別所英恵さんだった。「Team大川」でも裏方として支えてくれている。2人は臨床心理士で、もともと、2011年から哲也さんら大川小の子の学習支援や心のケアをしてくれている。様々な悩みを親身になって聞いてくれる優しい存在だ。
哲也さんは言う。 「1人でも本音を打ち明けられる人がそばにいることがどれだけ大きいかを感じました。でも、そういう環境になく、孤立してしまっている子たちもいる。まずは近くに信頼できる人がいると知ってもらうことが大切。そういう子たちとつながっていきたい」 そのため、今後大学に入り直し、心理学やカウンセリングを学ぶことも考えている。サポートされる側からサポートする側へ――。哲也さんの新たな一歩が始まろうとしている。
■只野哲也(ただの・てつや)さん 1999年、宮城県石巻市生まれ。小学校5年生のときに東日本大震災があり津波被害に遭うも救出される。学校にいて津波に遭いながら生還した児童4人のうちの1人。妹、母、祖父の家族3人が犠牲になる。報道や講演などを通して、被災校舎の保存を訴える活動のほか、語り部の活動も手伝う。高校卒業後、大学を2年で中退。2022年2月、新しいコミュニティーをつくろうと大川小の卒業生らと発足させた「Team大川 未来を拓くネットワーク」の代表に就任。 ------ 池上正樹(いけがみ・まさき) ジャーナリスト。KHJ全国ひきこもり家族会連合会広報担当理事。震災直後から石巻に入り、大川小学校の取材を続けた。明らかになった事実を記録するため、2012年から「ダイヤモンド・オンライン」で連載。『ふたたび、ここから~東日本大震災・石巻の人たちの50日間』(ポプラ社)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社/共著)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社/共著)を執筆。