COP29開催で考える 気候変動で“沸騰する地球”が健康に及ぼす悪影響
◇アストラゼネカの取り組み
我々は人、社会、地球の健康を目指すことを掲げ、脱炭素目標「アンビション・ゼロカーボン」を掲げて各国で取り組みを加速させています。 Scope1&2として2026年までに自社事業による温室効果ガス排出量を2015年比で98%削減します。Scope3として、2030年までにカーボンネガティブを達成するとともに、バリューチェーン(企業における価値創造のための一連の流れ)全体で2019年比で50%削減します。さらに、2045年までにバリューチェーン全体で排出量を同90%削減するとともに、残り約10%未満の温室効果ガスの排出も世界中に2億本の木を植樹することで除去し、ネットゼロ(排出量から吸収量や除去量を差し引いて「正味ゼロ」とする考え方)を目指します。 アストラゼネカの国内における具体的な温室効果ガス削減の活動として、1つ目は電気自動車(EV)への切り替えをしています。製薬企業には医療機関を訪問して医師と情報交換するMR(医療情報担当者)がいます。彼らの使う社用営業車が全国に約2000台あり、うち約70%はすでにEVに切り替わりました。 2つ目は国内拠点で使用する電力の再生可能エネルギーへの切り替えです。国内の拠点は、東京と大阪のオフィス、滋賀県米原市の工場の3拠点のみですが、2022年末までに、使用する電気を全て再生可能エネルギーに切り替えました。米原工場ではソーラーパネルも利用し、工場の電力の約20%分の電気を賄っています。 3つ目に、Scope3関連で“移動のグリーン化”を進めています。JR東海、JR西日本と共に、国内初のCO2排出量実質ゼロの新幹線出張を実現しました。アストラゼネカの従業員の新幹線移動にかかる電力を再生可能エネルギーで調達するというスキームで、2024年4月から、パイロット的にアストラゼネカが最初に導入しました。導入企業が拡大される中で、10月には、JR九州を加えたJR3社がサービス名として「グリーンEX」を発表し、対象が九州エリアにも拡大されました。 また、アストラゼネカにはカーボンバジェットという考えが出張に取り入れられています。飛行機による移動はより多くの温室効果ガスを排出します。アストラゼネカは、各国の経営陣に対して、飛行機利用で排出される温室効果ガスの総量を大幅に削減する目標を立て、その達成を業績評価基準の1つにしています。私は日本の事業責任者として、トラベルポリシーを数年前から変えて国内の全従業員の飛行機利用もコントロールしています。 業界全体を見ると、ヘルスケア産業の温室効果ガス排出量は産業全体の5~6%程度と報告されています。排出量が多そうなイメージがある航空産業や海運産業が2%程度です。ヘルスケア産業は、患者さんが治療後もフォローアップを受けるなどの間にさまざまな医療資材が使われ、バリューチェーンも長くて大きいため排出量も多くなってしまいます。 こうした中、ヘルスケア産業の一部である製薬産業は、医薬品を製造する過程で多くのエネルギーを利用します。医薬品の製造が集中する中国やインドにおいて、工場のエネルギー調達を再生可能エネルギーに切り替える取り組みを複数の製薬会社と共同して進め、ヘルスケアシステム全体の脱炭素化を図っています。