COP29開催で考える 気候変動で“沸騰する地球”が健康に及ぼす悪影響
◇アストラゼネカ・堀井貴史社長インタビュー
国連のグテーレス事務総長は2023年、地球温暖化の進行が危機的な状況であることを「地球沸騰化」と表現した。2024年、地球はさらに暑さを増している。気温や海水温が上昇する温暖化に加え、雨の降り方など気象の異常、これらの気候変動の問題は、さまざまな形で私たちの健康に影響を及ぼすことが明らかになっている。気候変動対策について話し合う国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が2024年11月11日にアゼルバイジャン共和国で開幕した。これに合わせて、ヘルスケア企業として気候変動の問題に取り組んでいるアストラゼネカの堀井貴史社長に、気候変動がどのように健康に影響を及ぼすのか、同社の取り組む対策などを聞いた。
◇「気候変動で今後さらに1450万人が死亡」の予測
医学誌「The Lancet」が発行している気候変動と健康に関する国際的な年次報告書「ランセット・カウントダウン 健康と気候変動に関するレポート」や、世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書」など、気候変動が健康に影響を及ぼしているというさまざまなエビデンスが発表されています。 最新の報告の中には、2050年までに世界でさらに1450万人が「気候変動関連死」するという報告もあります。WHOが公開している情報によると、世界が直面した未曽有の危機であった新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)によって亡くなった方の数は、最大だった2021年が約350万人でした。今後気候変動によって、新型コロナの4倍以上の方が亡くなるという試算で、気候変動による人々への健康や命へのインパクトがいかほどのものか、ご理解いただけるのではないかと思います。 では、気候変動で人が亡くなる原因は何でしょうか。 すぐに思い浮かぶのは、熱中症による死亡でしょう。日本で2021年に熱中症アラートが出された回数は延べ613回でした。それが2024年は延べ約1700回と、3年で2.8倍に増えました。これだけ暑い日が多いと、高齢者や基礎疾患のある方などは、熱中症で搬送され、最悪の場合亡くなるケースもあったかと思います。 しかし、熱中症による死亡だけが、気候変動関連死ではありません。気候変動は豪雨や台風など異常気象の原因にもなり、災害が起こると多くの方が亡くなります。また、海面上昇や大気汚染、生態系の変化も引き起こします。大気汚染は呼吸器疾患の増加につながりますし、夏の猛暑によって日本でコメの作柄が極端に悪化したように、気温の上昇によって農作物の品質が低下したり収量が減少したりすることや、家畜の健康の悪化、風水害による農畜産物への被害などによって食糧事情が悪化することも、人々の健康に悪影響を与えます。また、病原体を媒介する蚊などの生息域が拡大することで、感染症の流行地域が広がることも予想されています。