光害は人間の健康にも悪影響、がんや糖尿病や脳卒中などとも関連、自宅や寝室できる対策は
夜間の光で乱される概日リズム、研究が続々
人類の歴史から見ればつい最近まで、夜は闇に包まれていた。夜に細かい仕事をするなら、月明かりや焚き火、灯油ランプの光が頼りだった。現在では世界人口の約80%が、明るい屋外照明から家庭内の電灯やディスプレーまで、夜間に高レベルの光を浴びている。この過剰な光害(ひかりがい)が、睡眠障害から乳がんや脳卒中まで、深刻な健康被害をもたらすおそれがあることがわかり始めている。 ギャラリー:人類が地球を変えてしまったと感じる、空から撮った絶景 写真23点 この問題の全容も、誰が最も影響を受けやすいかも、まだ明らかになっていない。けれども科学者たちは、夜間の人工的な光が野生生物を混乱させるのと同じように、人間の概日リズムも混乱させることを知っている。 「人類が進化してきた時代の大部分は、昼は明るく、夕方は薄暗く、夜は暗かったのです」と、米トーマス・ジェファーソン大学の光研究プログラムを率いるジョージ・ブレイナード氏は言う。「人類はこのグラデーションを大きく変えてしまいました。ある人はそれで良いと感じ、またある人は苦痛に感じています」 屋外照明はここ数十年で劇的に増えた。近年、人工の光で照らされる屋外の場所の広さと明るさが、それぞれ毎年2.2%のペースで増えているという研究もある。以下では、人工の光が健康に及ぼす影響について現時点で明らかになっていることと、それを避けるために私たちや地域にできることを紹介する。
人工の光が体に影響を及ぼすしくみ
人工の光が健康に悪影響を及ぼすメカニズムは複数考えられる。夜に強い光を受けることは不眠の引き金となり、不眠は多くの疾患を引き起こすおそれがある。 夜に浴びる光はメラトニンが作られる量を減らす。メラトニンは、暗い環境で脳の松果体から分泌される睡眠ホルモンで、炎症や腫瘍を抑える働きをもつ。夜の光は腸内細菌叢(そう)の日々の変動周期も乱してしまう。 私たちの体は、目で光を感知している。詳しく言うと、網膜の桿体(かんたい)細胞と錐体(すいたい)細胞、そして内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)という特殊な神経細胞を通して光を感知する。これらの神経細胞は概日リズムを同期させ、メラトニンの放出に関わり、神経伝達物質を使って脳全体とやりとりしている。