ノーベル賞級成果「関西発の新素材」実用化へ
ノーベル賞の生理学・医学賞、物理学賞、化学賞は自然科学3賞と呼ばれる。この3年間、日本勢の受賞が遠ざかっているが、ノーベル賞級の成果とされる2種類の新素材が実用化の段階を迎えている。いずれも関西から生まれたもので、地球温暖化対策を含め、多様な分野での応用が期待されている。(松田祐哉、村上和史)
京都市の化学品メーカー「大原パラヂウム化学」が昨年4月に製品化した、この消臭材には、京都大の北川進・特別教授(73)が1997年に発表した新素材が使われている。
北川さんは、金属イオンと有機分子を材料に、ナノ(10億分の1)メートルサイズの微小な穴が無数に開いた化合物を生成。ジャングルジムのような構造をしており、狙った気体を貯蔵したり、分離したりできることを見いだした。
北川さんのチームは「多孔性配位高分子」(PCP)と名付け、ガスを自在に出し入れできる新素材として一躍注目を集めた。世界的には「金属有機構造体」(MOF)と呼ばれ、海外でも実用化に向けた研究開発が進む。この功績で北川さんはノーベル化学賞の有力候補に名を連ねる。
穴の開いた素材としては活性炭も古くから消臭材などに使われてきたが、MOFの特長は、わずか1グラムで穴の表面積がテニスコート27面分もある点だ。幅広いにおい成分を効率良く閉じ込めることができる。
同社専務取締役の大原正吉さん(37)は「活性炭など他の多孔性材料と比べて吸着能力が非常に高く、伸びしろのある素材だ」と力を込める。同社の製品はすでに大手ゴムメーカーの工場やホテルなどの消臭フィルターに活用されている。
CO2回収
北川研究室の出身者らが2015年に創業した新興企業「アトミス」(神戸市)はMOFを使った次世代型のガス容器「キュビタン」を開発。金属製のガスボンベよりも小型・軽量なのが利点で、燃料用のメタンガスなどを貯蔵する。