摂食障害で入院した女子高生 ダイエットにはまったワケ 体重戻らず栄養チューブも…回復できたきっかけは?
いつでもおいで「こどものこころ外来」
発達障害、不登校、ひきこもり、リストカット、摂食障害……。子どもの心の診療に携わる精神科医の宮﨑健祐さんが、子どもの心が元気を取り戻す方法を考えます。 【図表】うつ病にならないためにやめておきたい七つのこと
あけみさん(仮名)は小さい頃から真面目で頑張り屋さんでした。成績は優秀で、中学校ではバスケットボール部に所属し、地区大会で優勝したこともありました。高校1年生の時、体重がちょっと増えたことをきっかけにダイエットを始めるようになりました。最初はご飯を少なくする程度でしたが、徐々に食事を摂取しないようになり、体重はどんどん減少してしまいました。体力が落ちて、登校するのもしんどくなってしまい、ご両親と共に病院を受診されました。 初回の診察時、あけみさんの体重は平均的に必要とされる値を大きく下回っていました。まずは外来での治療が開始されましたが、体重はさらに低下。このままでは体が危険な状態になってしまう可能性があり、摂食障害ということで入院治療が始まりました。 入院後、それまでほとんど食べていなかったにもかかわらず、食事を毎回完食するようになりました。「早く退院したいから頑張って食べて治します」と話していましたが、無理をしているようにも感じられました。私との面接では、控えめで、気持ちをなかなか話してくれませんでした。ですので、最初は雑談をしたり、一緒に絵を描いたりして、あけみさんとの関係作りからスタートすることにしました。その一環で、箱庭を作成してもらったところ、真ん中にテーブルがあって、その上にケーキがぽつんと置かれている場面を作ってくれました。でも、それを食べる人はどこにもいません。どこか寂しげなその箱庭は、あけみさんの心の中をわかりやすく表現しているように感じられました。
頑張っても、頑張っても不安になってしまう
その後、1週間、2週間と経過しましたが、体重はなかなか増えません。実は、これはよくあることで、食べる量を増やしたからといってすぐに体重が回復するわけではないのです。それに、いきなり摂取カロリーを増やすことは体にとっても負担です。私は、焦らず、少しずつ体重を増やしていく必要があることをあけみさんに説明しましたが、なかなか納得してくれません。「そんなに頑張りすぎなくていいんだよ」とさらに伝えると、あけみさんは「そんなこと言わないで! 私は今まで物事を全部頑張って乗り越えてきた。だからこの病気も頑張って治すんだ!」と涙ながらに訴えました。あけみさんが感情をあらわにしたのはこの時が初めてでした。 ところが、その後も体重は少しずつ減少し、このままでは改善の見込みがないと判断されたため、あけみさん、ご両親とも相談し、鼻から栄養チューブを入れることにしたのです。この方法は身体的な状況が待ったなしの時に使用されるものです。確実に栄養投与ができ、食べる、食べない、という思いから解放されるというメリットがありますが、鼻から管を入れるのは苦痛が伴いますし、病気そのものが良くなるわけではありません。でも、事態が切迫してきた時はそんなことも言っていられません。あけみさんも最初は乗り気ではありませんでしたが、最後には早く退院できるなら何でもいい、と同意されました。その後、体重は徐々に増加していきました。 その後の私との面接では、気持ちを徐々に話してくれるようになりました。「私はこれといった特技もなくて、自分に自信がない。だから勉強も部活も頑張ることで乗り越えてきました。でも、頑張っても、頑張っても不安になってしまう」と言いました。ダイエットを始めた時も頑張って取り組みましたが、体は正直なもので、頑張れば頑張るほど体重が低下していきました。そうやって体重が減っていくことが生きる目標になっていたと言います。私は、あけみさんがそうならざるを得なかった気持ちに寄り添いながら、ご両親と看護師、臨床心理士、栄養士たちと協力して、チームで治療にあたりました。