なんと、ウォーキングしても「報われていなかった」…「健康づくりの域を出ない運動」が「山登りで役立つトレーニング」に変わる、驚愕の方法
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】なんで登山にトレーニングが必要か…山の4大事故を筋トレで防ぐ 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回から登山のためのトレーニングの考え方について取り上げていきます。普段から登山のためにトレーニングをしている、という方も多いと思いますが、今回は、そのような日頃のトレーニングが、じつは役立っていないかもしれない、といういささかショッキングなデータをご紹介していきます。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
真面目な頑張り屋が多い登山愛好家
登山者とは、普通の人には敬遠されがちな山登りというハードな運動を、進んで行う人たちです。いってみれば真面目な頑張り屋が多く、日常でのトレーニングも「やっている」と答える人が多いのです。 しかし、トレーニングをしていることと、それが登山に役立っていることとは別問題です。そして現状では、残念ながら、せっかくトレーニングをしているのに山で役立っていない人が多いのです。まずそのデータから紹介します。 これは拙著『登山と身体の科学』で、日本百名山を目指す約7000人の中高年登山者に訊ねた、山でのトラブル状況を紹介しました(以前の記事*でもご紹介しています)。ここでは同じデータの、トレーニングに関する部分を見てみます。 *以前の記事:じつは、山での「下りで脚がガクガク」は、「滑落事故」につながっている「驚愕のデータ」
7割の人がふだんからトレーニング…でも役立っていない?
まず、回答者の7割はふだんからトレーニングをしていると答えていました。種目 は、ウォーキング、階段昇降、自転車こぎ、水泳、ジョギング、ランニングのよう な有酸素運動、ほかには筋トレや各種の体操などです。ウォーキングの実施者は特に 多く、7割を超えていました。 図「下界でのトレーニング種目と山でのトラブル発生状況との関係」は、各種の有酸素運動をしていると答えた人が、山でのトラブルを防げているのかを分析した結果です。「+」の記号は、一定の効果が見られたという意味です。+の数が2つあるところは、よりはっきりした効果があるという意味になります。 この図を見ると、驚いたことに、ウォーキング、階段昇降、自転車こぎ、水泳をしていると答えた人では、どのトラブルに対しても+の記号がついていません。つまり山でのトラブル防止に役立っていないのです。数千人のデータを統計処理した結果なので、少しは役立っている人もいるのですが、多くの人ではトレーニングの努力が報われていないのです。 これらの有酸素運動は、健康維持や体力増進のために奨励されているものばかりです。それらを励行しているのに、山で役立っていないのはなぜでしょうか。 答えを言うと、下界で元気に暮らすための健康づくりや体力づくりには役立っているのです。しかし、登山をトラブルなしに行うという意味での体力づくりには役立っていない、ということなのです。