急増する人工衛星が招く光害(ひかりがい)という脅威 満天の星が視界から消える?
太古の昔から人々を引きつけてきた星空が、急速に明るくなっている。それは、「まるで銀河鉄道」とたとえられる存在が引き起こしていて、光害(ひかりがい)の原因になっている。その実態はどんなものなのか。天文台や宇宙科学の研究機関などが集まる天文学の聖地、アメリカ・アリゾナ州に専門家たちを訪ねた。(小川詩織) 【動画】約30年でこんなに増えた東京の人工の光 深刻化する光害
南西部アリゾナ州ツーソンから80キロ。標高2000メートルを超える山の上に口径4メートルの望遠鏡を備えるキットピーク国立天文台はある。 年間300日は晴れ、市街地からも離れているため夜は暗い。訪れた8月上旬、見上げた夜空は満天の星で、1等星のベガ、アルタイル、デネブを結んだ夏の大三角や、さそり座がくっきりと見えた。 ツーソンは天文台だけでなく、天文学や宇宙科学の研究所が集中する。そんな天文学の聖地で近年、夜空を脅かす「光」が危惧されている。 「最近はここでも、星の中を動く光の列が頻繁に見られるようになってきた」。キットピークで毎晩開かれているガイドツアーで、ガイドの一人は星空を眺めるツアーの参加者に向けてそう話した。 その「光」とは、地球の上空を飛行する人工衛星に反射した太陽の光だ。
人類初の人工衛星「スプートニク」が打ち上げられたのは60年以上前。ほんの5年前までは、衛星の数は数千機ほどだった。 ところが、大量の衛星で全世界をカバーして通信や観測をする「コンステレーション」という衛星群が登場した。すでに、衛星は1万機ほどに増えているが、インターネット通信サービスを提供する米宇宙企業スペースXや英衛星通信会社ワンウェブ、米アマゾンなどが今後、さらにそれぞれ数千~数万機の打ち上げを予定する。 今年8月には中国もインターネットサービス用の衛星を18機打ち上げた。将来的には1万機以上を配備する予定だ。 中でも、最も懸念されているのがスペースXのスターリンク衛星だ。2019年に最初の60機が打ち上げられたが、今や6000機ほどにまで増加。衛星の光が一列に夜空を進む様子は「まるで銀河鉄道のようだ」と言われるまでになっている。 ツーソンに本部を置き、光害への取り組みを進めるNPO、ダークスカイ・インターナショナル(旧・国際ダークスカイ協会)は、2030年末までに地球低軌道上に5万機の人工衛星が飛ぶと予測。その反射光は、夜空の明るさを250%増加させ、星の半数が視界から消える可能性がある。対策を講じないと、夜空の15個の光のうち約1個が人工衛星になるというシミュレーションもある。夜空の見え方が根本的に変わってしまうのだ。 「チリの望遠鏡で撮った写真をお見せしましょう」 ツーソンにある米国立光赤外線天文学研究所(NOIRLab)の科学者、コニー・ウォーカーさんが示した写真は、スターリンク衛星が打ち上げられた直後に撮ったもので、衛星による光の筋が19本写り込んでいる。