ゆとり先生の教育提言(4) 被差別者が亡くなれば差別はなくなるのか?
差別はどうしたらなくなるのか―― 新型コロナウイルスの感染者や医療従事者、さらにはその家族に対する差別的な言動が表面化し、全国的に問題になっています。なぜ差別は起きてしまうのか。高校生を連れて14年間に渡ってハンセン病療養所を訪れ、社会から差別・隔離されてきた元患者の方々と交流する機会を設けてきた、元高校教諭で教育者の野村泰介さん(42)にそのヒントを探ってもらいました。 ***
コロナ禍で表出したもの
ここ数か月、インターネット上・リアルを問わず新型コロナウイルスの感染者や医療従事者に差別的な言葉を投げ掛けられる事案が見られました。また、緊急事態宣言発令時に各都道府県が要請した「県境をまたぐ移動の自粛」や店舗・施設に対する「休業要請」がエスカレートし、他県ナンバーを付けた車や営業している飲食店やライブハウスなどに対する嫌がらせの事例が後を絶ちませんでした。マスクを着用せず外出している人や公園で遊んでいる子どもに対する暴言なども含め、いずれも平時であれば「深刻な人権侵害」として問題になり得るものばかりです。 しかもこれらは、一部の「極端な考えを持った人」によるものではなく、「新型コロナウイルスは怖い。拡げないために正しいことをしているのだ」という正義心に基づく行動だけに始末が悪いなという印象を受けました。 なぜ、特定の人々を対象とした「袋叩き」のような状況が起きてしまうのでしょうか。かつて「ハンセン病」という病気に罹った人に対し、国家レベルで行われた熾烈(しれつ)な差別という負の歴史から学ぶべきことがあるのではないでしょうか。 今回は、ハンセン病元患者が長年受けた差別と、コロナ禍の下で起こっている差別の共通点や差別を無くす方法はあるのか? という問いについて書いてみようと思います。
ハンセン病とは?
ハンセン病とは、「らい菌」という菌が引き起こす感染症です。感染力は弱いのですが、末梢神経に影響が出るため、皮膚がただれる、身体の一部が変形するなど、見た目が健常者と大きく変わることがあります。かつて国では法律でハンセン病患者を一般社会から隔離する政策を掲げていました(1907年「癩予防に関する件」、1931年「癩予防法」、1953年「らい予防法」年)。 国の方針を受け、道府県ではハンセン病患者を地域から追放する「無らい県運動」(1929年)が行われるなど、長い間差別の対象とされてきました。第二次世界大戦後、「プロミン」という特効薬の投与により、ハンセン病は「治る病気」となりましたが、回復者を社会から隔離することは続きます。患者の強制隔離の根拠となる法律が廃止されたのは1996年のことです。