縄文人はどこから来た? 遺伝をめぐる“誤解” 古代ゲノム研究から見えてきたこと #令和の人権
「ゲノム」(genome、遺伝情報)が身近になってきた。自分の体質や「ルーツ」がわかるとうたう検査キットが数万円で利用でき、ダイエット目的や単純な興味で購入する人が増えている。一方で、結果をうのみにしたり、遺伝だけでは決まらないものが「わかる」とされたりするなど、遺伝にまつわる誤解も広がっている。ゲノム人類学が専門の太田博樹さん(東京大学教授)は、「遺伝学は差別につながるとして忌避される傾向にあったが、もはや避けては通れない。ちゃんと理解して、差別のない社会を目指す方向に進むべき」と話す。太田さんに、古代ゲノムが明らかにすることや、現代社会に生きる私たちがそれをどう受け止めるべきかなどについて聞いた。(取材・文:藤井誠二/撮影:鈴木愛子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
遺伝子検査が「『人種』という概念を再生産しているところがある」
去る8月30日、DNA(デオキシリボ核酸)をめぐるある判決が言い渡された。暴行の罪で起訴されたものの無罪となった男性が、警察当局が採取したDNA型・指紋・顔写真の抹消を国に求めた裁判。名古屋高等裁判所は一審同様、抹消を命じた。判決は、DNAという「究極の個人情報」を捜査機関がみだりに保持するのは憲法違反とし、関連する法律の整備を求めた。重要な司法判断だ。 遺伝情報の利用には、ゲノム医療などのポジティブな側面がある一方、差別や偏見の温床になる危険をはらむ。 個人が利用できるさまざまな「遺伝子検査サービス」もある。ウェブサイトで検査キットを購入し、唾液を送ると、健康情報や体質、「祖先ルーツ」などの解析結果が返送される。数万円程度で利用できるが、データ解析・解釈の科学的根拠が明らかではない場合がある、さらに解析結果に疑問や不安が生じた時のサポートが十分ではないなどの問題が指摘されてきた。 古代ゲノム研究の日本における第一人者、東京大学教授の太田博樹さんはこう話す。 「遺伝子検査による祖先(ルーツ)解析は、欧米では大流行しましたが、日本ではそれほどでもありませんでした。欧米で流行した理由は、『○%ドイツ人』『○%イタリア人』という具合に意外なルーツが表示される面白みですが、日本の場合、たいてい『100%日本人』と表示されるんです。中国や韓国が数%入ることがあるかな、というぐらい。それは当たり前で、参照しているデータベースに大陸のデータが細かく入っているわけではないし、欧米ほど移動していないから、『日本列島にいました』というストーリーを売るだけになってしまう」 この場合の「100%日本人」は、「数百年前ぐらいから、現在日本国とされているエリアに住んでいた人がご先祖ですよ」というくらいの意味しかないのだが、あたかも「純粋な日本人」という「人種」が存在するように読めることも、差別に悪用されるリスクがつきまとう。