物価高でチケ代高騰 二極化する「推し活」事情 これでも日本はまだ安い? #くらしと経済
「これまでよりも『推し活』にお金がかかるようになってきた」。20年以上アイドルグループのファンをしている40代の女性はそう話す。チケット代やファンクラブ会費は値上がりするが、自分の収入が上がるとは思えない。一方、チケット代高騰でも「観劇ペースは崩さない」という人もいる。物価高やエンタメにかかる費用の上昇は「推し活」にどのような影響を及ぼしているのか。実際に「推し活」をしている人と、エンタメ消費に詳しい識者に聞いた。(取材・文:川口有紀/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「推し活」でひと月20万円超 チケット値上がりも「観劇ペースは崩さない」
「本業が忙しいときは観る本数が減りますし、借金をしてまで観ようとは思いません。ただ、よほどのことが起こらない限り、今の観劇ペースを崩すことはないと思います」 中国地方に住む田中美香さん(仮名、45)の「推し活」は、演劇やミュージカル。「推し」の俳優は数多くいるが、現時点での一番はミュージカル俳優の廣瀬友祐さんだ。 今年4月、ミュージカルファンがどよめいた。帝国劇場(東京都千代田区)で上演される舞台『モーツァルト!』のチケット料金が、1万8500円(土日祝のS席)と発表されたからだ。3年前、2021年の同公演・同席種の料金は1万4500円。約3割の値上げである。初演時(2002年)は1万2000円だった。SNSでは「高すぎる」「この価格だと何度も観られない」との声が上がった。
近年、ミュージカルや演劇公演のチケット代が上昇している。しかし、田中さんは「推し活」のスタイルを変えていない。劇場でしか得られない価値があるからだ。 7月のある土曜日、東京・日比谷のシアタークリエで廣瀬さんが出演するミュージカルの昼公演と夜公演を観て、そのまま一泊。翌日、もう一度昼公演を観て、新幹線で地元に戻り、さらに翌朝、福岡へ移動。博多座で、劇団☆新感線の新作公演を観劇。豪華なステージングで有名な同劇団も、チケット料金は安くはない。博多座の一等席は1万6000円。2020年の公演(コロナ禍で中止)は1万4500円だった。4年で10%の値上がりである。 田中さんの「推し活」記録を見せてもらった。2023年の観劇回数は、トークショーなどの関連イベントも含め、約150回。過去には180回を数えた年もあったという。2023年10月のスケジュールを見ると、廣瀬さん出演のミュージカルを東京で1回、大阪で2回、福岡・愛知・群馬で各1回観劇し、廣瀬さんのバースデーイベントにも参加。合間にもさまざまな舞台を観て、ひと月の観劇本数は12本だった。 遠征費(交通費・宿泊費)も含めると、使った金額は、昨年12月から今年5月までの半年で、平均して1カ月に20万9000円。 「廣瀬さんのほかに、古川雄大さんと大貫勇輔さん、新妻聖子さん、それからアイドルグループTOKIOと、俳優が多く所属する事務所の有料ファンクラブに入っているので、その会費も払っています。チケット代やホテル代が高くなっている実感はあります。でも、観劇などの趣味以外にほとんどお金を使わないし、そもそも地方住まいなので、ほかに使う場所も機会も少ないんですよね」 田中さんは家族が経営する会社の役員を務めている。総務・人事・経理を一手に引き受けている。地元に戻る前は、東京などで外資系企業の営業職を経験しており、今も必要とあらば営業もする。 「劇場通いは、日々の仕事を乗り越える原動力です。劇場や都市によっても空気感は変わるし、思いがけないハプニングが起こることもあります。舞台上のキャストの演技にも日々変化があり、まったく同じということはありません。舞台の魅力は人間が生み出す圧倒的なパワーを生で感じられること。日常生活ではまず味わえないほど感情を揺り動かされること。何度も観た作品でも、年齢を重ねてから観ると新たな感動を得ることもあるし、感情移入してしまう登場人物が変わってくることもある。舞台を通じて仕事のアイデアが浮かぶこともある。推しの俳優は、そういう体験をさせてくれる大切な存在なんです」