ほんとうに私だけが悪いのか…「片づけられない」アスペルガーの妻が離婚協議で夫に放った「思わぬ不満」
子育てに関する約束
この提案に対し、双方が同意したため、調停人が別居中の約束事として、何を決めておきたいかと尋ねたところ、二人が同時に口を開いたが、出てきた言葉は「子どものことを…」だった。二人は画面上で互いの顔を見合わせ、相手が何を言うのかうかがっている様子であった。 調停人は、「お二人とも、お子さんのことが気になっているのは共通していそうですね。サチさんからお聞きしてもいいですか」と促した。 「別々に暮らしても、もう少し育児を分担してほしいです。その分、私も仕事を増やしたいと思います。私は私の育児にあまり自信がありません。でも、だからといって、これ以上改善できそうにもありません」 そして、調停人に具体的にどんな分に分担してほしいかを問われると、土日はどちらか1日預かってほしいと答えた。 康太は、「週末1日預かるのは全然問題ないです。それに、サチが仕事を増やすのも賛成です。サチは、仕事をしているときの集中力がすごいし、webデザイナーとしての腕前も相当です」
別居していても父と母でいられる
調停人は、前向きな材料が出てきたことを見逃さず、「確かに、苦手な育児を頑張るために仕事を減らすという考え方もありですが、苦手なものはあまり無理をせず、得意なものでカバーするというやり方もいいですね」と二人の意見を支持した。 そのほか、別居期間中のお金のやりとり(婚姻費用)や再度話し合いを行う時期も併せて取り決め、調停終了となった。結局、二人は2年ほど別居生活を続けた。この間、サチが心療内科を受診することもあったようだが、具体的な解決には至らず、双方ともに「別居していても父と母でいられる」と実感できたことから、2年後に再度ADRを実施、離婚に至った。 <離婚協議のポイント>
「言わなくても分かるだろう」は通用しない
夫婦関係において、「言わなくても分かるだろう」は禁物で、きちんと口に出して伝える必要があるのはどんな夫婦においても共通だ。しかし、一方がアスペルガーの場合、口に出して明確に伝える必要性がぐっと高まる。例えば、よくこんなエピソードが引き合いに出される。「今日は体調が悪いから夕飯を作れそうにない。何か買ってきてほしい」と伝えたところ、アスペルガーの夫(妻)が自分の分だけ買ってきたというものだ。 普通なら、自分の分だけではなく、体調が悪くても食べられそうなものをいくつか見繕って買ってくる人が多いと思うが、アスペルガーの人にとっては、「自分の分も買ってきてほしい」と言われていないから買ってこなかっただけで、何ら悪気はない。離婚というセンシティブな話題においても、離婚意思や理由をかなり明確に伝えないと伝わらない。