第166回直木賞受賞会見(全文)米澤穂信さん「ミステリーは自分にとっての大事な軸足」
最初の着想から変化した部分はあったのか
西日本新聞:西日本新聞の佐々木と申します。本日はおめでとうございます。 米澤:ありがとうございます。 西日本新聞:よろしくお願いします。先ほども、人物の話の中で、今回の作品の中で人物のお話をされていましたが、黒田官兵衛がとりわけすごく印象に残ったんですが。特に最後の独白のシーンっていうか、もそうなんですが。 この小説を書かれる上で黒田官兵衛、最初のイメージ、それから書いていって執筆する中で、付き合っていく中で、変わっていったり、なんか発見したり、そういったことが何か最後のシーンへのつながりだったり、あるいは作品全体、最初の着想から変化する部分とかはあったんでしょうか。 米澤:私はこの小説の中で、私、わりと最初からそうだったんですけども、集団と個というものを書いてきたつもりです。作中の荒木村重というのが集団の論理で動く、組織の論理で動く、しかしただ1人、牢の中にいる黒田官兵衛というのが個の論理で動くことができる。そういう人物を書いていったつもりでした。 なので、最後まで個の論理で集団の論理と抗する黒田官兵衛というのが書いていけるかなと思ったんですけれども、取材を進めていくうちに黒田官兵衛遺訓という文書に出合いまして、そこで書かれている文章を見たときにこれだと、これがこの小説を締めくくる官兵衛の言葉になるだろう、つまり個の論理で集団の論理に抗した牢の中でただ1人だった黒田官兵衛が1つの福岡の、中津が先ですけれども、領主として、上に立つ者として、これから人生を生きていく、そこに、その論理に出合う、そういう場面を書けば、この小説というのが1つ幕が閉じられるのではないか、そう気付いたときに、牢の中の官兵衛というのがただの囚人ではなく1人の人間として、そして、やることのあるべき人間として立ち上がってきたように思います。 西日本新聞:ありがとうございました。 米澤:ありがとうございます。