第166回直木賞受賞会見(全文)米澤穂信さん「ミステリーは自分にとっての大事な軸足」
このような形で評価されたことへの感想は
共同通信:共同通信社の鈴木と申します。このたびはおめでとうございます。 米澤:ありがとうございます。 共同通信:先ほど、投げた石が大きな池をつくったかなという印象的なお話もあったんですけど、今回は初めてだと思うんですけれども戦国時代を舞台にしたミステリーということで、選考委員の浅田次郎さんも非常にユニークな作品という評価がありましたけれども、書き上げたときは。 米澤:すいません、今なんとおっしゃったかちょっと聞き損ねて。すいません。 共同通信:すいません、選考委員の方も非常にユニークな作品だということで高く評価されておりましたけれども、書き上げたときには誰が読むんだろうというふうな不安もあったというふうにおっしゃっていました。今回この作品が直木賞でこのような形で評価されたことについて、あらためてご感想、ご意見をお聞かせてください。 米澤:そうですね、私これまでたびたびあったことではあるんですけれども、最初に着想をする、ただ、その着想をいざ書くときに、いったいこれは出版社の方に出していただけるものなのだろうか、読者が喜んでくれるものなんだろうかっていうふうに思い悩んで、もうちょっと一般的なものを書きましょうかと、もうちょっとそこに大きな池があることを分かっているものを書きましょうかっていうふうに申し上げることがこれまでも何度かありました。しかし、それがあまりに外れたアイデアだったら編集者の方もそうですねっておっしゃいますが、中には、いえ、ぜひそれで書いていきましょう、最後まで書き上げてくださいっておっしゃることがあった。
今後どのような作品を書いていきたいか
それは例えば『満願』であったり、例えば『折れた竜骨』であったり、そして今回の『黒牢城』もそうでした。書いていくときに、果たして戦国時代、16世紀の日本というのを舞台にしてミステリーを書いて、そしてその中でそれを通じて当時の時代、世界っていうものを書いていくというものに、読者が米澤を読んで面白かったっていうふうに思ってもらえるのか、そこを思い悩んでいたんですが、編集者の方は、いや、それはぜひ書いてくださいとおっしゃっていただいた。正しかったなというふうに思っています。 共同通信:これまで米澤さん、ミステリーに軸足を置きながら、高校生の日常を描いたような作品から、あるいはまったく時代も空間も違うような、を舞台にしたような作品も描かれて、非常に幅広いと思うんですけれども、先ほどの池の例えに倣って、今後どのような作品を書いていきたいか、書き続けていきたいか、お聞かせください。 米澤:そうですね、いろいろ書きたいことは胸の中にありまして、その中のどれが、次、自分が書くものとして浮かび上がってくるのかというのは、ちょっと自分でもコントロールのできないところがあります。ミステリーと、それからそこで描かれる時代、時、そして人、そういうものが3つ重なって、ようやく初めて小説が自分の中に浮かび上がってくるんですけども、さあ、次はどういうものが浮かび上がってくるのか、自分自身も不安半分、楽しみ半分に、はい、考えているところです。