RIZINでの役目は終わった──高田延彦61歳が明かす激動の人生 #昭和98年
だが中身は違っていた。ヒクソンの土俵である寝技に引き込ませず、コーナーに押し込んでジリジリと相手のスタミナを奪おうとした。試合中、場内に響いた高田コールは1年前になかったものだ。しかし寝技の攻防に移ってヒクソンのアキレス腱を取ろうとした瞬間に上下のポジションが入れ替わり、最終的に腕を取られた。 「9分過ぎていてあと1分で次のラウンドなのに、あそこで足を取りに行っちゃダメなんですよ。ヒクソンに餌まかれて、飛びついちゃった。バカでしょ、俺。でもね、柔術を始めて感じるのは、やっぱりヒクソンはとんでもない強者だったんだなって」 61歳になった高田は今もなおヒクソンの残像と戦っていた。
妻への思い、そしてRIZINとの別れを初告白
プロレスラーとして威信を回復できなかった無念はずっと心にある。それは愛妻への思いとも重なっている。 「いろいろと心労をかけてきましたからね。頭が上がりませんよ。本当だったら、私のダンナは強いってね、カッコいい勝ちを見せてあげたかった。俺にしかできない恩返しって、それしかないから。そこができなかったのは、本当に悔いが残っているんですよ」 つぶやくようにして高田は言った。 五里霧中の森をさまよいながらも歩を進めることができたのは、妻が寄り添ってくれたからだ。その感謝は一日たりとて忘れたことはない。 UFCが誕生して30年の月日が経過した。現役から身を引いて20年を迎えた高田は今、RIZINから離れる意向だという。もはやRIZINに寄り添う自分の役目は、終わっていると考えている。 「26年前にPRIDEがスタートしてからたくさんの素晴らしい選手たちと出会えたことに心から感謝ですね。まだ先方には伝えてないですが、60歳を超えたオッサンが導き出した“自分へのご褒美”ですよ(笑)。数年前の潮時は逃しちゃったけど。これからは第三者として遠くから見ていきたい。僕がいなくなってもRIZINは何も変わりませんから。 今後は柔術を長く続けたいってことしかない。残りの人生、何が待っているのかなって楽しみにもしているんです」 深い皺を刻んだ口もとが柔らかく緩む。 霧が消え一点の曇りもない、見通しのいい道。これからの人生を目の前にして、高田延彦の心は今、晴れ晴れとしている。