「才能あるのに売れないなんて、寂しいじゃない」 渡辺正行から小沢一敬へ。受け継がれる「若手芸人の登竜門」#昭和98年
空前のお笑いブームと言われるが、それを支えるのは「ライブ」という広い裾野だ。中でも、お笑いタレントの渡辺正行が1986年に立ち上げた「ラ・ママ新人コント大会」(通称「ラママ」)は、爆笑問題やネプチューン、バナナマンらが輩出した「若手芸人の登竜門」だ。しかし渡辺は、今年4月の400回を機に、幕引きを考えていたという。それを引き留めたのが、お笑いコンビ・スピードワゴンの小沢一敬。群雄割拠のお笑いの世界で、渡辺はなぜ「ラママ」を続け、小沢は何を受け継ごうとしているのか。(取材・文:キンマサタカ/撮影:木村雅章/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
観客のバツが10人で「強制終了」 毒づいた若き太田光
金曜の夜7時の渋谷・道玄坂近く。ライブハウスの入り口に客が列をなす。若い男女のすぐ横を、芸人とおぼしきいくつものグループが足早に通っていく。 この日行われていたのは「ラ・ママ新人コント大会」。月に一度開催されるお笑いイベントだ。 ライブハウス「La.mama」は音楽イベント向けの箱で、椅子を並べても100人以上入る。小さなパイプ椅子に腰掛け、開場を今かと待つ観客で満員である。 若手芸人による前説が終わると音楽が流れて、会場のボルテージが上がる。大きな拍手とともにスピードワゴン小沢一敬と、「リーダー」こと渡辺正行がステージに出てきた。テレビの中のスターが、手を伸ばせば届きそうな距離にいる。
「ラママ」は1組1ネタが基本で、ネタが終わるたび、渡辺と小沢がステージ上でコメントする。ネタを披露した直後に寸評を行うことで、観客と演者が一緒にネタを振り返ることができる。 ライブ中盤に、「コーラスライン」と呼ばれる観客参加型のコーナーがある。観客にはあらかじめバツ印が描かれた札が配られており、面白くないと感じた客はネタの途中でも札を上げることができる。バツが10人に達するとステージは暗転し、強制終了。ネタの途中で中断させられた若手コンビが渡辺に泣きつく。それを見て観客は笑う。若き日の爆笑問題・太田光が、強制終了させられた瞬間、客席に盛大に毒づいたという逸話もある。