【特集:ニッポンAIの明日】第2回 東京はAI開発の世界的拠点になれるか―快進撃のサカナAI創業者、伊藤錬さん
例えば、今年の中ごろからは、AIモデルにデータや計算資源を投入すれば性能が良くなる傾向が鈍り始め、モデル同士を対話させて「リーズ二ング(論理的推論)」能力を高める方向性がトレンドになりました。また2025年はいよいよ、個々の基盤モデルをAIで統御する「エージェント」の時代になるといわれています。
私たちは、当初からAIモデルが大きいほど良い(the bigger, the better)という傾向に疑問を持ち、「エージェント」や「リーズ二ング」の研究を誰よりも早く始めてきました。ただし、それは「3年」ではなく「半年」早くという感覚です。みんながやっていることを捉えたうえで、それとは違うことを少し早く始めるのです。
共同創業者3人でバランスよく役割分担
当然、一つのやり方がうまくいく保証はないので、ポートフォリオで考えます。サカナAIでは我々3人の共同創業者で「どんな分野が次にくるだろうか」を日々考えています。そしてそこから考えたビジョンを実現できそうな人材を海外から連れてくる。10個伸びそうな分野があると思ったら、10個の分野の専門家を1人ずつ連れてきてやってもらう。そのなかで一つ当たればよいという発想です。
―ビジョンを作る力や、求心力のあるリーダーが必要ということですね。
米オープンAIなどとは違う「変なビジョン」、しかし同時に「変すぎない」ビジョンを打ち出して、興味を持ってもらうことです。そして「サカナAIのビジョンは当たる」という成功事例を見せることが求心力につながるのだと思います。
なお、AIモデルのまったく新しい作り方といった「開発のビジョン」と、世の中の課題をどう解決するかという「ユースケースのビジョン」は異なります。両者を無理やりくっつけようとするのは、よくある誤りです。良いユースケースを見いださなければAI業界全体への失望が広がってしまいます。その意味で、ユースケースは極めて重要な一方、ユースケースだけを見ていてはノーベル賞級の研究開発の芽を摘むことになりかねません。共同創業者3人で役割分担し、そのバランスを取りながらやっています。