免疫不全の患者 新型コロナに長期感染するリスク 対処法をまとめた「臨床対応指針案」とは?
新型コロナウイルス感染症は、ワクチンや薬が普及して普通の感染症となったようにみえますが、持病の影響で免疫が著しく弱った患者にとっては今も怖い病気です。こうした人たちのため、国立感染症研究所などの研究班はこれまでの知見をまとめた「臨床対応指針案」を策定しました。(中田智香子) 【図解】免疫不全の患者が新型コロナに長期感染してしまう仕組み
元の病状悪化も
コロナに感染しても、免疫が正常なら免疫細胞がウイルスを撃退し、数日後に自然に治ることがほとんどです。一方で、免疫抑制剤の使用やがんなどの病気の影響で、免疫細胞が減ったり機能が落ちたりすると、抵抗力が弱まります。体内のウイルスの量を抗ウイルス薬でいったん減らしても、残ったウイルスを退治しきれず、再び増殖して感染が長引くことがあります。 この間、元の病気の治療を中断せざるを得ず、病状が悪化するケースも多いとされます。こうした場合にどうすべきかは、標準的な治療法について国が示した「診療の手引き」には示されていません。
そこで、感染研などの研究班は2024年9月、免疫不全の患者について国内外で得られた知見を整理した指針案を発表しました。免疫不全の状態を元々かかっていた病気の種類や症状の程度によって、軽度、中等度、高度に分類しています。 免疫抑制剤は、関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患の治療や、臓器移植後の患者に使います。こうした場合、コロナの治療中は、抑制剤の投与量の慎重な調整を検討するべきだとしています。 たとえば、肝臓や肺など固形がん患者は多くの場合、中等度に分類されます。免疫が正常な人と治療は基本的に同じですが、その間は原則としてがん治療は中断になります。再開のタイミングは、がんの治療を担当する医師に相談します。 高度の免疫不全にあたるのが、悪性リンパ腫などの免疫細胞ががん化する血液がんの患者です。ウイルスに対抗する抗体を作る免疫細胞「B細胞」を減らす薬で治療する患者は、特に深刻になります。 有効な可能性がある治療として、指針案では2種類の抗ウイルス薬を使った症例の研究が紹介されています。指針案をまとめた感染研感染病理部の鈴木忠樹部長は「治療法をはっきり提示できる段階ではないが、ベストな治療を議論する際の材料にしてほしい」と話しています。