【特集:ニッポンAIの明日】第2回 東京はAI開発の世界的拠点になれるか―快進撃のサカナAI創業者、伊藤錬さん
ケイパビリティとユースケースが鍵に
東京が、その一つになれるかどうか。よく言われる「街の魅力」や「住みやすさ」だけではなく、重要なのは「働きたいと思える、面白そうなAI企業があるか」に尽きます。そこでは、日本の言語や課題に特化した開発よりも、日本以外に展開できる、そして他のAI企業とは違う面白い課題を示すことが重要です。「たまたま日本にあるだけで、世界レベルの技術を持った企業」を作ることが本丸だし、それはできると思っています。
日本にも優秀なAI研究者がいますし、サカナAIでも獲得できていますが、その層はまだ底上げの余地があります。安全保障などの観点から「国産AI」を作らなくてはという話によくなりますが、一番大事なのはAIのケイパビリティ(開発の能力)をもつことです。日本でケイパビリティを構築するには、日本でやろうという世界レベルの企業が出てくること。そして「人」も重要な呼び水になります。CTOのライオン・ジョーンズが日本にいるから、第2、第3のライオン・ジョーンズがやってくる。そうした連鎖を作っていくことだと思います。
政策に期待するのは、とにかくユースケース(応用事例)をつくることです。諸外国の政府の支援パッケージを見ても、補助金や各種のイベント、税制などよりも、政府が自らAIを導入することの有効性が示されています。例えば、ビザの審査にAIを活用しているオランダなどが良い例でしょう。AIの発展に貢献するし、なにより、行政のなかでAIが使えるという実感が持てることで、社会全体のリテラシーが向上する。このことがAIを使う社会につながり、結果的に効果が高いと思います。
潮流と違うが、違いすぎない「ビジョン」を立てる
―サカナAIがこれほど早く大きな成果を出してきた背景には、一流の研究者がいるだけでなく、マネジメント面に秘訣があるのではないでしょうか。
もちろんプロジェクトマネジメントは行っていますが、重要なのは「ビジョン・マネジメント」です。ビジョン・マネジメントとは、今のトレンドをつかんで、「ちょっと違うけれど、あまりに違いすぎない(different but not too different)」方向性を示すこと。