水のように流れる坂本龍一の音空間へ。『坂本龍一 | 音を視る 時を聴く』展レポート。
音楽家としての活動だけでなく、アーティストとの協働でも知られる坂本龍一。2023年に惜しくも没した彼の大型インスタレーションを包括的に紹介する展覧会が〈東京都現代美術館〉で開かれています。坂本の音とアートに体ごと包まれるような空間です。 【フォトギャラリーを見る】 イエロー・マジック・オーケストラやソロ活動、映画『ラストエンペラー』などの音楽で世界的に知られている坂本龍一。彼は90年代からマルチメディアを駆使したライブパフォーマンスを展開、2000年代からはさまざまなアーティストとの協働を通して音を立体的に配置する試みを行っていた。現在〈東京都現代美術館〉で開かれている『坂本龍一 | 音を視る 時を聴く』は生前の坂本が残した構想を軸にしたもの。コラボレーションアーティストとして生前の坂本と交流のあった高谷史郎やカールステン・ニコライらが、スペシャル・コラボレーションとして中谷芙二子が登場する。
展示はパフォーマンスグループ、ダムタイプのメンバーでもある高谷史郎と坂本の《TIME TIME》から始まる。モノクロームの映像には謎めいた風景や人物、テキストが現れる。「夢幻能」(※注1)や夏目漱石の「夢十夜」、能「邯鄲(かんたん)」(※注2)などからインスピレーションを得た作品だ。観客はどこまでが現実で、どこまでが夢や空想なのか、判然としない空間に誘い込まれる。 ※注1:「夢幻能」 能は大きく「現在能」と「夢幻能」の二つに分けられる。現在能は生きている人間のみが登場するが、夢幻能は亡霊や草木の精など霊的な存在が主人公となる。 ※注2:「邯鄲」 盧生(ろせい)という青年が不思議な力を持つ「邯鄲の枕」で一眠りしたところ、50年あまりの富裕な人生を送る夢を見る。目覚めてわずかな時間しか経っていないことを知った盧生は、この世は夢のようにはかないとの悟りを得る。
同じく高谷と坂本の協働による《LIFE–fluid, invisible, 》は1999年初演のオペラ『LIFE』を脱構築したインスタレーション。天井から吊られた9つの水槽に霧を発生させ、映像が投影される。小さな空中庭園が浮かんでいるようにも感じられる。 高谷とのもう一つの協働作品《water state 1》はさまざまに姿を変える水と、不変と感じられる石とが対照的なインスタレーションだ。中央の黒い水盤には“雨”が降っている。雨が降る様子は作品が設置されるエリアの降水量データに応じて変化する。雨によって生まれた波紋は音に変換され、照明とともに微妙に変わっていく。窓のない展示室にいても、いつのまにか移り変わっていく自然環境を感じることができる。