高橋 巧選手 独占インタビュー「鈴鹿8耐、3連覇を達成したHRCファクトリーの真実:ライダー編」
意味不明のピットサインボード
終盤で波乱もあった。HRCのピット作業で、給油マン以外のクルーが給油中にマシンに触ったとして、+10秒のストップ&ゴー、または+40秒(ゴールタイムで40秒加算)のペナルティを課せられたのだ。結論としてチームは+40秒を選んだのだが、チームはこれを高橋選手にどう伝えるか悩んだ。そして、それまで+50(リードが50秒)だったピットサインを+10にして表示した。リードが40秒減ったのだ。 「ギャップがいきなり減り過ぎたものだから、違う人のピットサインを見ているんだと思いました。でも、僕が通過するときに出ているから……」 ピットが終わる1コーナー寄りの場所にタワーがあり、そこに順位と残り時間が表示されている。タワーは高いので、相当首を上げて見ないといけない(ストレートで伏せているから辛い)。そこで高橋選手は、残り時間を確認した。 「タワーで見ると残り5分もなかったので、『残り2ラップで10秒も縮められることはないだろう』と考えましたが、理解しようもないですよね。まさかペナルティが出ていたなんて」 結果は、HRCファクトリーは40秒を加算した8時間01分29秒693で優勝。2位YARTヤマハとの差は7秒860だった。ゴール後、真相を知らされた高橋選手。給油リグを抜く前に、リア担当のメカニックがスイングアームスタンドを下ろしたのだ(マシンに触った)。『ハイ』という合図が、給油満タンの合図なのか、給油リグを抜いたという合図なのか、あるいはどこか他からの『ハイ』だったのか……+40秒の原因を作ったメカニックは謝るしかなかった。 「そのメカニックは昔からやっている人で、『ホント、ごめん』と真剣に謝ってくるので、『別に勝ったから良いですけど、負けてたらボコボコに……』と冗談半分で言いました。その映像を見ましたけど、そこはチーム側と、メカニック側の連携が取れていなかったのだと思います」 ルーティンではないピット作業だからこそ確実さが求められるのだが、給油もいつもとは異なる量(少ない)で、メカニックにすればいつものタイミングではなかった。 「冷静に考えれば50秒ぐらいリードはあるんだから、そんなに焦ってやる必要はなかったんですけど、1秒でもピット作業で縮めておきたいという気持ちで、最後までやってくれたからこそのミスだったと思います。ライダーにしてみれば、ピット作業で1秒縮めてくれるというのは、ありがたい。だから、7秒差でも勝ちは勝ちなんで、僕は気にしていませんけど」 50秒差でも7秒差でも、勝ちは勝ち。CBR1000RR-Rファイアブレード/SPは3連覇を達成し、高橋選手は前人未踏の8耐6勝をあげたのだった。 レポート●石橋知也 写真●柴田直行/ホンダ 編集●上野茂岐
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