高橋 巧選手 独占インタビュー「鈴鹿8耐、3連覇を達成したHRCファクトリーの真実:ライダー編」
ダンロップコーナーをインベタで回る仕上げ
そうはいっても、従来型と同じような乗り方では2024年型の特性に合わない、そう高橋選手は考えていた。例えば、2023年型と長島哲太選手はベタベタにフルバンクして、その時間も長かったが、2024年型と高橋選手はフルバンクの時間が短く、ダンロップコーナーなどではインをカットするほどインベタで抜けていくのだ。 「ライダー側でも走らせ方を変えた方が、(2024年型の)良い所を引き出せるかもしれないと思っていました。昔からダンロップコーナーは、インベタのラインが良いと自分は思っていて、それに合わせてマシンも作っていますから」 2024年型8耐仕様は高橋選手が仕上げたので、高橋選手のラインで走った方が速く、無理なく走ることができる。チームメイトのヨハン・ザルコ選手と名越哲平選手は、高橋選手のマシンセットアップをいじらずに、乗り方や走行ラインを学習して実戦に生かしていた──ザルコ選手はこう言っている。 “僕には、どんなマシンでも乗りこなす自信があるし、MotoGPライダーだから速さがある。そして、タクミは鈴鹿マイスター。彼の出したセッティングを崩さずに、自分を対応させることが課題だ。パワーがあって強くブレーキングするMotoGPと違い、8耐のCBRは高速でスムーズに走らせる必要がある。だから、電子制御のないMoto2のように、走り込んで対応すればいい” ザルコ選手は逆バンク(右コーナー)からダンロップコーナー(上り左コーナー)にかけて、右ヒジ擦りから左ヒジ擦りへ、誰よりも鋭く、かつスムーズに切り返すのだが、ダンロップコーナーは、インベタの高橋ラインだ。 「マシンをそういう風に作っちゃっているから、そのラインで走るのが一番良いし、走りやすいんだと思います。ザルコはひとつ下で年齢も近く、僕が鈴鹿8耐に15回出ていて、5回勝ってることを事前に知ってくれていた。彼好みのマシンじゃなかったかもしれないけど、『このマシンはこういう風に走れば速く走れる』と理解してくれた。データなどを見て、僕の良い所は取り入れてくれたと思います」 インベタラインのマシンに仕上がっていることを、高橋選手は最初にチームメイトに伝えたそうだ。 「ザルコは初めて鈴鹿に来て、僕の『後に付いて走りたい』と言うので一緒に走ったり、逆に僕が彼の後ろに付いて走ってとか……ここは、こうした方が良いんじゃないかとか、そういう話もしていました。(名越)哲平には、『こう走った方がタイヤに優しいし良いよと。そうしやすいようにマシンもなっているから』という話はしていました」 MotoGPライダーならプライドが強く、自分の好みのセッティングなどを要求しそうなものだが、ザルコ選手はクレバーで『自分はスポット参戦ライダー』といって、主戦ライダーである高橋選手を信頼し、それが勝つために最善の方法だと認識していた。 また、ザルコ選手はHRCファクトリーマシンのトラクションの良さに着目していた。「YARTヤマハは最終コーナーでリアがスライドしているけど、HRCのマシンはそこは我慢できて、続くストレートで伸びる」トラクションの良さはエンジン特性に起因している。 「トラクションが上手くかかるようなマシンになっていました。エンジン特性を比べると従来型は下がなかった。CBRが新型になった2020年から主張し続けていたのは、コーナーがある以上、下からの加速は大事だということ。最高速が5km/h速いより、そこに到達するスピード(時間)の方が大事なんです」 「それはBSB(イギリススーパーバイク選手権)行ったときにすごく感じました、馬力があれば良いってもんじゃないんです。イギリスは小さなコースが多いから、下がなかったら何もできない。その時のチームメイトが速かったのは、単にコースを良く知っているからマシンの弱点を補うことができていただけ。2024年型は、狙っていた方向が良かったんじゃないですか。改善できたことは今後に向けても良かったと思います。ストレートでも、ライバルより間違いなくホンダの方が走っていた。そして燃費の良さですね。それも武器にできました」
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