月面で自律走行&撮影に成功 直径8センチの小型ロボ「SORA-Q」は玩具技術の結晶
「コンピュータや電池入り切らない」小型化を実現した出会い
大きさや重さの制約によって、LEV-2の機体の動きを制御するオンボードコンピュータの見直しにも迫られた。渡辺さんは語る。 「サイズが小さくなると、これまで検討していたオンボードコンピュータや電池が入りきらなくなってしまうので、機体そのものがつくれるのかという危機感もありました」 この難問に頭を悩ませていた渡辺さんが出会ったのが、ソニーセミコンダクタソリューションズが2018年7月に発売したばかりのIoT向けオンボードコンピュータ「SPRESENSE(スプレッセンス)」だ。スプレッセンスは小型で消費電力が低いのに計算能力が高いことからロボット、AIカメラ、スマート農業などに幅広く使われている。毎年訪れていた展示会のブースでスプレッセンスの存在を知ると、渡辺さんはその場で協力を打診した。 「これだったら変形ロボットの機体に入り、電池も小さくできると思いました。スプレッセンスと出会わなければ直径8センチの機体の実現は無理でしたね」
この出会いによってソニーグループも共同研究の輪に加わるようになった。LEV-2の制御システムは、センサーやカメラが捉えた情報をJAXAの開発したソフトが分析して、機体をどう動かすのかを決める。それをもとに、ソニーグループの開発したソフトウェアに伝達することで機体が自律的に動く仕組みになっている。 LEV-2は月面でカメラが捉えたSLIMの姿を分析して次の動きを決めていく。そのため、カメラによる画像認識は自律走行の成否を握る大きな鍵となる。ただ、LEV-2の画像処理技術のアルゴリズム開発には特殊な苦労があったという。ソニーグループで開発チームのリーダーを務めた永田政晴さんは、その事情を説明する。 「カメラと画像処理の精度を上げる過程では、実際に宇宙で撮影した時にどのように写るのかが、重要な情報となります。実際に月に行くSLIMのフライトモデルは厳重に管理されていたので、私たちは最後の段階までその実物を確認することができませんでした。模型を使ったり、仮説を立てたりして開発を進めましたが、苦労しました」