月面で自律走行&撮影に成功 直径8センチの小型ロボ「SORA-Q」は玩具技術の結晶
JAXA側で開発を取りまとめていた平野さんは、2社の開発メンバーに探査機を宇宙で使えるものにするためのノウハウを伝えながら開発を進めていた。タカラトミーもソニーグループも量産品づくりに慣れており、同じ品質の試作品を複数台つくることができた。これによって開発がスピーディーに進んだと平野さんは言う。 「従来の宇宙機は一点物。つくったものを壊さないように慎重に試験する必要がありました。でも、今回のロボットは試作機を何台もつくり、繰り返し試験できました」
7カ月かけて愛称を決定、本番前に原寸大の玩具も販売
LEV-2の開発にめどが立ってきた2020年10月、タカラトミーでは赤木謙介さんを中心にLEV-2に関する新規事業プロジェクトチームが立ち上がった。赤木さんたちは、まずLEV-2が多くの人たちに親しんでもらえるような愛称を考えるところから始めた。
しかし、いざ考えてみるとどの案も決め手に欠け、なかなか決まらない。一般的に玩具の名称は2~3週間で決まることが多いが、このときは7カ月ほどの時間を要した。この間に考えた候補は140案にも上った。最終的には、宇宙を意味するSORA(宙)とクエスチョン(問い)やクエスト(探求)などの意味合いをこめたQを組み合わせて「SORA-Q」に決まった。 そして、子どもたちに宇宙をより身近に感じてもらえるように、SORA-Qのフライトモデルと同じ大きさで、同じように変形する1/1スケールモデルの「SORA-Q フラッグシップモデル」を2023年9月に発売した。アンケートを採ると、子どもたちの宇宙への関心は大人よりも10%近く低かったからだという。
収納するとちょうど野球ボールほどの大きさになるSORA-Q。月面探査への挑戦が報じられ、世間の関心も高まる中で、今回は月面からのSLIM画像の送信という大仕事をやってのけた。ただSORA-Qの機体は太陽電池や地上と直接通信する機能は持っておらず、ともに月面に降りたLEV-1と通信し、LEV-1を通して地上にデータを送る仕様になっていた。SORA-Qは2時間程度の活動を前提としてつくられていたため、当初の目的──SLIMの様子を自律的に判断して撮影し、画像を転送する──を終え、電池が切れると、そのまま活動を停止した。