月面で自律走行&撮影に成功 直径8センチの小型ロボ「SORA-Q」は玩具技術の結晶
この決定で、渡辺さんたちが開発してきた変形ロボットはSLIMに搭載する月面探査機であるLEV-2として開発が進められることになった。 LEV-2は、地上からの指令を受けずに月面で自律的に活動するロボットとなる。月面には大きな起伏があり、レゴリスという細かい砂で覆われている。LEV-2には、そのような場所を自在に動ける走行性能と、LEV-2自身が姿勢や周囲の状況などを認識して自律的に動く能力が求められた。 ただし、大きな制約も課せられた。大きさを直径8センチ以下、重さを300グラム以下に収めるというものだ。もともと、収納時に直径10センチの球形となる想定で開発を進めてきた渡辺さんたちは、この条件にとても戸惑った。 「これまでの研究で直径10センチの機体であれば10度ほどの傾斜のある砂の坂を上ることができました。2センチ減るだけですが、直径8センチとなると駆動力が弱くなり、月面では動けなくなると思いました」 実際、直径8センチの試作機で砂の上を走らせてみると、車輪が滑って前に進むことができなかった。そのとき、渡辺さんたちの頭に浮かんだのは、孵化(ふか)したばかりのウミガメの動きだった。海岸に掘られた穴の中で孵化したウミガメは、前肢を交互に動かして穴から這い出してくる。その動きをヒントにして、LEV-2の車軸をそれぞれの車輪の中心から少しずらすことで、左右に揺れながら前進するように設計した。 「最初のテストでまったく動かないことを確認すると、翌日、タカラトミーの社内で一緒に開発していた米田陽亮さんに車軸の中心を変えた試作機をすぐにつくってもらいました。試してみたら砂の上でも動くようになりました」(渡辺さん)
その後も、車輪の動かし方に工夫を重ね、左右の車輪が一緒に動く「バタフライ走行」と車輪の位置を180度ずらし、左右の車輪が交互に動く「クロール走行」の2つのモードで走行できるようにした。渡辺さんと一緒に機体づくりを担ったタカラトミーの米田陽亮さんは試作の回数の多さに驚いたという。 「おもちゃの場合、通常2~3回試作したら量産に入るのですが、中に入れるオンボードコンピュータ(部品を基板に配置したシステム)を置く位置を少し変えるなど、細かい調整が何度も入り、20回以上つくり直しました」