火星の衛星は崩壊した小惑星の破片から形成された? 新たな研究が示唆
アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年11月20日付で、火星の衛星フォボスとダイモスの起源に関する新たな仮説を提唱したNASAエイムズ研究センターのJacob Kegerreisさんを筆頭とする研究チームの取り組みを紹介しています。研究チームの成果をまとめた論文はIcarusに掲載されています。 火星探査機マーズ・エクスプレスのミッション20周年記念画像
フォボスとダイモスはどうやって形成されたのか?
一見すると小惑星のように見えるフォボスとダイモス、その起源を巡っては「捕獲説」および「巨大衝突説」という2つの仮説が提唱されています。捕獲説は「火星に接近した小惑星が火星の重力で捕獲されて衛星になった」とする説で、巨大衝突説は「古代の火星に別の天体が衝突した時に生じた破片から形成された」とする説です。 火星のすぐ外側に小惑星帯があることは捕獲説を後押ししますが、フォボスとダイモスの軌道はどちらも火星の赤道に対してほとんど傾いておらず、軌道の形も真円に近いため、捕獲後に軌道を整えた何らかのメカニズムが必要になります。一方、衝突で生じた破片が火星の周囲に形成した円盤からフォボスとダイモスが誕生したと考える巨大衝突説は衛星の軌道の特徴を説明できますが、ダイモスが予想される円盤の範囲よりも遠くを公転している理由などを説明する必要があります。 このように、フォボスとダイモスの起源を巡る2つの仮説には、それぞれ強みと課題があります。また、近年では捕獲説と巨大衝突説の他にも、内側の衛星(現在のフォボス)が崩壊と形成を繰り返しているとする説や、1つの衛星が2つに分裂したとする説も提唱されています。
火星に接近・崩壊した小惑星が起源となった可能性を提唱
今回Kegerreisさんたちが提唱したのは、捕獲説と巨大衝突説のハイブリッドと言えそうな仮説です。小惑星のサイズ・自転・移動速度・火星最接近時の距離といった条件を変えた何百通りものシミュレーションを行った研究チームは、以下のようなシナリオに辿り着きました。 まず、火星にたまたま接近した小惑星がロッシュ限界(ロシュ限界※)の内側に入ってしまい、バラバラに崩壊します。崩壊で生じた破片の一部はそのまま火星の重力から逃れていきますが、残りは捕獲されて火星を周回するようになります。 ※…ある天体に接近した別の天体が潮汐力によって破壊されてしまう限界の距離のこと。両天体の密度や潮汐力をもたらす天体のサイズによって距離が異なる。 破片の軌道は太陽と火星の重力による作用で徐々に変化していき、軌道が交差した破片どうしの衝突が繰り返されるようになります。やがて火星の周囲には無数の破片からなる円盤が形成され、そこからフォボスとダイモスが誕生した、というのです。 捕獲された小惑星がそのまま衛星になったのではなく、また火星で巨大衝突が起きたと仮定するわけでもなく、接近した小惑星が崩壊して生じた破片からフォボスとダイモスが形成されたとするこの仮説。想定される天体は巨大衝突説よりもずっと小さな小惑星でも成立し、火星から離れた場所まで衛星の材料となる物質を十分に供給できると研究チームは述べています。