月面で自律走行&撮影に成功 直径8センチの小型ロボ「SORA-Q」は玩具技術の結晶
渡辺さんたちはJAXAを訪問し、話し合いを重ね、2016年4月からタカラトミーとJAXAは小型ロボット技術について共同研究をすることになった。JAXAは企業や大学と連携する「宇宙探査イノベーションハブ」という組織を前年に設立しており、両者の共同研究はこの枠組みを利用した。 共同研究を進めるとすぐに、小型ロボットを球体にするアイデアが出た。月や火星などのように地形がはっきりとわかっていない場所での移動に対応できるのではないかと考えられたからだ。だが、渡辺さんは過去に球形のラジコンを研究していた経験もあり、懸念があった。 「球体は動きやすい形状のため、少しでも抵抗があるとすぐに左右に転がって、進む方向がぶれてしまう。安定して前に進まないのです。ではどうするか。球体が変形すればいいのではと考えたのです」
タカラトミーには、ロボットがトラックなどの自動車に変形する玩具「トランスフォーマー」を長年つくってきた実績がある。こうした玩具づくりの技術がSORA-Qに生かされた。渡辺さんたちが考えたのは、球体が半分に分かれ、半球状態の2つのパーツが車輪の役割をするという仕組みだ。そのように変形すれば、走行を安定させられるうえ、着陸機(今回であればSLIM)で運ぶ際の安全性も高められる。 「月や火星などで活動する場合、着陸機に搭載することになります。球体なら着陸機にコンパクトに搭載できるし、打ち上げ時や飛行時の振動からも守られる。さらに、着陸の際に車軸が曲がってしまう心配もないので、一石三鳥くらいの効果が期待できました」
ウミガメの動きをヒントに直径8センチでも駆動力創出
試作機を何度もつくり、1年後の2017年3月に開催された成果発表会で、渡辺さんたちのつくった小型変形ロボットは高い評価を受けた。JAXAの久保田さんは振り返る。 「この頃にはタカラトミーのロボットはすばらしい出来になっていて、実際に探査機に載せたいと思うようになりました」 2016年4月、SLIMプロジェクトが動き出し、SLIMの機体の設計や試作が進んでいた。2017年の段階ではSLIMに小型ローバーやロボットなどを搭載する予定はなかったが、2018年8月に計画が変更され、小型探査機を載せられる余裕ができた。そして、SLIMが月面に着陸する様子などを撮影する目的で、2機の小型探査機を搭載する計画が承認された。