月面で自律走行&撮影に成功 直径8センチの小型ロボ「SORA-Q」は玩具技術の結晶
SLIMのプロジェクトチームはこの画像が届いたことに、ことのほか喜んだ。なぜなら、SORA-Qからの画像はJAXAの遠隔指令を受けて撮影されたものではなかったからだ。月面に着いたSORA-Qが、SORA-Q自身の判断で、SLIMとの距離などを計測し、撮影した。しかも、撮影した複数の画像の中からSLIMがバランスよく写っている画像を選択し、地上へ送信していた。想定していた自律的な動きが達成できていたのである。 SORA-Q開発の立役者の1人である同志社大学生命医科学部教授の渡辺公貴さんはSORA-Qから送られた画像を目にして、胸をなで下ろした。 「実際に宇宙に行くフライトモデルを引き渡してから着陸まで20カ月ほどの期間がありました。時間の経過で劣化するような部品は使っていませんが、過酷な温度、真空など、地球と全く違う環境でどうなるかという心配がありました。でも、100%うまくいったと言っていいほどの成果が出ました」
渡辺さんは2020年春までタカラトミーの社員で、同社在籍時、体長4~5センチほどの小型動物ロボット「マイクロペット」や身長16.5センチ、体重350グラムの小型二足歩行ロボット「アイソボット」を開発した経歴を持つ。それらのロボットの開発後も小型ロボットの開発に取り組んでいたが、商品化にまで至らない時期が続いた。そんなとき渡辺さんは、JAXAが企業や大学に対して研究提案を募集する中に、昆虫ロボットをテーマにした募集があることを知った。 「それまではJAXAや宇宙開発と聞いても、壮大すぎて別の世界の話だと思っていました。でも、昆虫型ロボットと聞くと、私自身も研究してきた経験があり、部品点数が200~300点程度で想像がつく範囲になります。おもちゃメーカーの私たちでも、いろいろなことができるのではないかと思い、すぐに話を聞きに行きました」
変形ロボット玩具づくりで培った技術が生かされる
JAXAが小型の昆虫ロボットの研究提案を募集したのは、年々大型化していく宇宙開発に対する危機感があったからだ。例えば、アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げ、1997年7月に火星に着陸した探査車(ローバー)の「ソジャーナ」は重量10キロほどだったが、2012年8月に火星に着陸した「キュリオシティ」は900キロほどまでになっていた。 長年、宇宙探査ロボットの研究をしているJAXA宇宙科学研究所教授の久保田孝さんが言う。 「大型探査機の開発は時間もお金もかかります。日本はアメリカと比べて宇宙関連予算が少ない。探査機を小型化すれば、現状を打破する新しい宇宙探査ができるのではないかと考えたのです」