CSファイナルSで126球1-0完封勝利したオリックス山本由伸の何がどう凄かったのか…緊張と不安を脱した修正能力
いつもは直球、フォークに次ぐ割合のカーブを若月のサイン通りに多投した。しかも山本のカーブは落差が大きく、打者の視界から一度消えるような山なりの軌道を描く。球速も120キロ台で直球との緩急の差も大きく、相手打者を金縛りにさせる。 初回のピンチは二死までこぎ着けた後に、レアードに対してフルカウントからカーブをウイニングショットとして選択。まったくの想定外だったのか、一瞬ながら腰を浮かせたレアードは、ど真ん中に落ちてきたカーブをぼう然と見送るしかなかった。 4回にはカウント2-2から、今度は外角に鋭く落ちる131キロのカーブを投じる。1勝1分けで突破した3位・楽天とのファーストステージで6打数4安打、1本塁打、2打点と当たっていた6番・山口航輝を再び見送り三振に斬った。 「バッテリーが考えてカーブを上手く使ったことで、ピンチをクリアして徐々に修正した。初回に157キロ出た直球の球速も150キロや151キロほどに抑えられていたが、力が抜けてきた証拠だろう。5回以降のパーフェクトは彼の持つ修正能力のたまものだと思う」と池田氏。 ほとんどが150キロを超える山本の直球に的を絞っていた分だけ、ロッテ打線にカーブが効果的だった。その上で球数を重ねるごとに本来の軌道を取り戻した直球とフォークにカーブだけでなくカットボール、ツーシーム、スライダーを織り交ぜながら、相手打者を威圧した。 この修正能力の裏に山本の凄さの秘密がある。 池田氏が、こう分析した。 「山本の凄さは、すべてのボールがカウント球であり勝負球であること。マウンドの傾斜を使い、投げる方向に体を動かすフォームが動作解析の上で完成されている。関節を動かす動作が少なく無駄がない。人体力学的に関節を動かすとそれを戻す動きが必然的に生まれ、誤差が出てくるものだが、そこを抑えているのでボールのスピード、質、制球のすべてのレベルが最高峰のものとなっている」 緊張感から解放されたところへ、価値ある白星をつかんだ安堵感が加わったのだろう。ーローインタビューで初回の先制点に感謝した山本は、本拠地へ駆けつけた1万7915人のファンの笑顔を、本音も入り混じったこんな言葉で誘っている。 「とにかくそれ(先制点)を守ろうと投げていましたけど、途中からは『もうちょっと点がほしいな』と思いながら…」 山本が最後に喫した黒星は5月19日。同じ京セラドーム大阪で、6回を投げて今シーズン最多の6失点(自責点4)を許した相手はくしくもロッテ。山本は、その嫌な記憶を断ち切った。 一時は脳裏をかすめた継投策を完全に封じ込め、不動のエースにすべてを託した中嶋聡監督は、「もう山本、山本、山本ですね」と名前を連呼した。 「いろいろなこともあって立ち上がりは決していい調子ではなかったけど、素晴らしい修正能力というか、よく立て直した。フォークがいまひとつだったんですけど、別のボールでしっかり試合を作るのはやはり彼の素晴らしさだと思う」