なぜヤクルトはCS最終S“開幕戦”で巨人に快勝したのか…奥川の「マダックス」だけではなかった勝利理由
セのクライマックスシリーズ、ファイナルステージ第1戦が10日、神宮球場で行われ王者のヤクルトが3位から阪神を下して勝ち上がってきた巨人に4-0で快勝。先発の奥川恭伸投手(20)は、わずか98球の無四球でプロ初の完封勝利を初経験の大舞台でマークした。ヤクルトはアドバンテージの1勝を加えて2勝とし6試合制のファイナルSの主導権を握った。両チームの明暗を分けたポイントは果たしてどこだったのか。
失投のなかった奥川と失投を2ランされた山口
「凄すぎてなんにも言えない」 巨人撃破の立役者の一人、塩見が神宮のお立ち台で燕党を沸かせた一言がすべてだろう。 98球目。「ここまできたら完封してやるぞ、という気持ちでした」という奥川が9回二死から投じた145キロのストレートにウィーラーが押し込まれ平凡なセンターフライに終わった瞬間、20歳6か月の若武者は両手を上げて最高の笑顔を浮かべた。 1回から9回までスコアボードに並べたゼロ。プロ初完投が初完封。メジャーで100球未満の完封勝利投手を13度も成し遂げたブレーブスの“殿堂投手”グレッグ・マダックスに敬意を表して「マダックス」と呼ぶが、その「マダックス」をCSファイナルSの初戦という大舞台でやってのけたのである。 経験のある大先輩たちを押しのけて奥川が高津監督からCSの開幕投手に指名されたのは「すごく前で、その時から緊張した」そうだが、ピンチらしいピンチは3点のリードで迎えた5回くらいだった。 先頭のウィーラーにあわや本塁打のレフトフェンス直撃のシングル打を許し、一死から吉川に一、二塁間を破るヒットでつながれて一死一、三塁とされたが、ここでギアが上がった。 初球から打ち気だった代打・亀井のタイミングをフォークでわずかに狂わせた。犠牲フライには浅いレフトフライ。ベンチで原監督が思わず悔しそうに太ももを叩いた。さらに代打・八百板と、巨人は勝負手を打つ。フルカウントから外角低めに142キロのストレートをズバッ。八百板は微動だにできなかった。結局、二塁を踏ませたのは、2度しかなく、6安打9奪三振の無四球。それでも奥川は「大きな1勝になったかなと自分でもホッとしています」と初々しく語った。 阪神で昨年まで7年間コーチを務め、WBCでは原監督に誘われ三塁コーチも担当した評論家の高代延博氏は、「奥川の凄さは、ストレート、フォーク、カットの全球種でストライクが取れて勝負もできて、しかも失投が1球もないこと」と評価した。 「6本のヒットのうち本当に芯で捉えられたのはウィーラーのフェン直の1本だけ。相手ベンチが奥川の攻略が難しいのは、ほとんどがストライクゾーンで勝負されるが、キャッチャーの構えたところから甘く入ってくるボールがほぼないこと。中村が左打者のインサイドに構え、それがボールになるときもシュート回転して中へ入るのではなくインサイドにひとつ外れる。右打者にしても同じで外のスライダーが中に入らずにひとつ外へ外れる。対照的に立ち上がりにサンタナに2ランを打たれた山口は初球のスライダ―が外に甘くいき、7回に追加点を許した畠も失投だった」 奥川のストライク率は75%を超えていた。