実現するか?「量子コンピューター」 いったい何がすごいのか
今年もノーベル賞の季節がやってきました。10月4日(日本時間)の「生理学・医学賞」を皮切りに「物理学賞」(5日)、「化学賞」(6日)と連日発表されます。 【図表】新型コロナ「mRNAワクチン」生んだ2つの発見 30年来の研究がつながる これに合わせて、日本科学未来館の科学コミュニケーターの皆さんに3回連載で注目の研究や各賞の歴史を紹介してもらいます。第2回は「物理学賞」の分野です。科学者たちの長きにわたる努力と探究心によって、ノーベル賞の受賞が期待される研究はたくさんあります。その中から、“問題によっては”従来のコンピュータをはるかに凌ぐといわれ、実現に向けた研究が進む「量子コンピューター」の難解な世界をお伝えします。
実現には飛び抜けた技術が必要な「量子コンピューター」
「スーパーコンピューターで○○年かかる計算が量子コンピューターなら××分でできる」――。こんな売り文句がずっと気になっていました。いったい量子コンピューターの何がすごいのか、どこが科学的に新しいのかを伝えたくて2か月以上リサーチしてきましたが、量子コンピューターの技術や原理は想像していたより「知の結晶」で、やはり難しいというのが正直なところです。ただ、量子コンピューターの面白さに触れるためにその原理を完全に理解しなければいけないとは思っていません。この記事では量子コンピューターの原理も説明しますが、あまり身構えないでください。皆さんなりの「ここが面白い」と思えるポイントを見つけていただければ本望です。 量子コンピューターの研究の始まりは1980年代にさかのぼります。当時、量子コンピューター研究の中心にいた学者の一人がリチャード・ファインマンでした。彼は量子力学の発展に大きく寄与したアメリカ出身の物理学者で、1965年には朝永振一郎(ともなが・しんいちろう)らとノーベル物理学賞を受賞した人物としても知られています。ファインマンは、物理の正しいシミュレーションを行うためには量子力学の原理を使ったコンピューターが必要になると考えており、量子コンピューターの理論モデルを提唱していました。ただ当初は、量子コンピューターに興味を示す研究者はごく少数でした。後述しますが、実際に量子コンピューターを作るには飛び抜けた技術力が必要だからです。