家はネズミが運動会、ゴミ出しに疲労困憊――認知症患者ルポ第1弾
今まで楽しんでいた趣味に興味がわかない、ものを置いた場所を忘れてしまう、家族との会話が楽しめない……もしかすると、これらはMCI(軽度認知障害)のサインかもしれない。MCIとは「認知症になる一歩手前の状態」で、そのまま放っておくと認知症に移行するリスクがある。2024年1月には認知症基本法が施行され、認知症の患者さんを支える仕組みが徐々に整備されつつあるが、依然として家族が大きな負担を強いられる場面も少なくない。「知らなかった」で後悔してほしくない――シリーズ・小さな変化を大きな気付きに~MCIを知る、第2回は家族の視点からみた認知症患者さんのルポ第1弾。 【ポイント】気になる物忘れ、ただの「年のせい」じゃないかも
◇ゴミでいっぱい、悪臭がただよう部屋で暮らす女性
「一軒家なんだけどね、どの部屋も何層にも積み重なったゴミでいっぱいなんだ。ゴキブリが巣を作ってるし、ネズミも繁殖して走り回っていてまるで(ネズミの)運動会だよ」 水戸市に住む田中健一さん(78)(仮名)と美智子さん(75)(仮名)はそう話し始めた。健一さんの姉、鈴木千恵さん(80)(仮名)は夫を亡くしてから千葉県市川市で一人暮らしを続けていたが、徐々に認知機能が低下して生活がままならなくなった。 美智子さんが撮ったという玄関の写真を見せてくれた。脱ぎ散らかされた靴の上に段ボールや絨毯じゅうたん、傘などが雑多に積み重なり足の踏み場もない。 「冷蔵庫の中ではきゅうりがドロドロに溶けてるの。でも冷蔵庫はまだいいのよ、扉が閉まるから開けなければ臭わないもの。最悪だったのは、居間にお魚のアジがパックに入ったまま放置されて腐ってたことよ」 悪臭を思い出したのか美智子さんは顔をしかめた。 「洗濯機の中には汚れた服がぎゅうぎゅうに詰まってるんだ。服を洗おうと思って洗濯機に入れて忘れちゃうんだよ。お風呂なんてもう最後にいつ洗ったか分からない。まるでドブのようだよ」
室内やベランダ、庭などにゴミが散乱して片づけられず、悪臭や異臭、害虫が発生する「ゴミ屋敷」は認知症によって引き起こされる代表的な社会問題で、「セルフネグレクト(自己放任)」とも呼ばれる。 美智子さんがもう1枚写真を見せてくれた。天井に茶色いシミが広がっている。2階にあるトイレが壊れて1階の天井に排水がしみ出てきた跡だ。とてもこの家で生活できるとは思えない。