実現するか?「量子コンピューター」 いったい何がすごいのか
複数のイオンを一列に並べる「量子コンピューター」
ショアのアルゴリズムに代表されるように、量子コンピューターは、古典コンピューターが不得意とする計算を速く解けるポテンシャルを秘めています。これが例の「スーパーコンピューターで○○年かかる計算を量子コンピューターなら××分でできる!」という売り文句につながります。では、なぜ量子コンピューターはそんなに速く計算できるのでしょうか。答えを先に言うと、「量子コンピューターは、古典コンピューターとは全く違う計算手順で問題を解くので、古典コンピューターでは時間のかかる問題を効率よく解ける場合があるから」です。つまり、量子コンピューターは古典コンピューターと動作原理も演算も全く異なる、“ニュータイプ”な計算機なのです。量子コンピューターに得意な問題は速く解けることが分かっていますが、どういう問題が得意なのかについてはまだ完全には分かっていません。 それでは、いったい量子コンピューターとは何なのでしょうか。一言でいうとそれは「ミクロな世界の物理現象を利用するコンピューター」です。古典コンピューターは数十ナノメートル(十万分の数ミリメートル)レベルに微細加工された半導体にデータを書き込んで計算しますが、量子コンピューターはさらに小さい物質、たとえば原子や電子、光子などにデータを書きこんで計算します。あまりにも緻密な技術が必要なため、ファインマンが生きていた時代に量子コンピューターの研究が注目されなかったのもうなずけます。どんな技術を使ってこんなことを達成したのか、「イオントラップ型量子コンピューター」の場合を例にして説明しましょう。 「イオントラップ型量子コンピューター」は、「イオン」にデータを書き込んで計算する量子コンピューターのことです。イオンとは、ここでは電気を帯びた冷却原子を指しますが、要は小さくて動き回らない電気の粒だと思っていただければOKです。イオンは電気を帯びているので、周りから静電気力を受けます。例えばプラスに帯電したイオンはプラスの電荷に反発し、マイナスの電荷に引きつけられます。では、ある1個のイオンを囲むように四方からプラス/マイナスの電場を交互に与えたら、何が起こるでしょうか? そのイオンは周囲から「引力」と「斥力」(せきりょく=退け合うように働く力)を交互に受けていきますが、このとき条件がそろうと完全に立ち往生してしまいます。これがイオンを閉じ込める技術「イオントラップ」です。 イオントラップを応用すると、複数の棒状の電極で囲まれた筒状の空間内に、複数のイオンを一列に並べるようにして閉じ込めることができます。実は、このようにして並べられたイオンの列が「イオントラップ型量子コンピューター」なのです。2012年には、このイオントラップ型量子コンピューターの開発がノーベル物理学賞の受賞対象になりました。