実現するか?「量子コンピューター」 いったい何がすごいのか
古典コンピューターは桁の大きな「素因数分解」ができない
量子コンピューターがとりわけ注目されるようになったのは1994年のこと。アメリカ出身の数学者ピーター・ショアが「量子コンピューターを使って特定のアルゴリズムで演算すれば、効率よく素因数分解を行える」という発見をしたのです。素因数分解は「21=3×7」のように大きな数を素数(※注1)の積(掛け算の結果)として表す計算のことです。「21=3×7」くらいの素因数分解なら簡単ですが、「9420013=2683×3511」などの大きな数になってくると、だんだん解くのが困難になってきます。600桁程度の数字になると、私たちがいま使っているコンピューター(以後「古典コンピューター」と呼びます)では到底求めることができません。スーパーコンピューターでも不可能です(より正確に言うと、ものすごく時間をかければ解けるのですが、その頃にはおそらく地球は滅んでいるでしょう)。 (※注1)素数…1とその数でしか割り切れない数
一方で、2つの素数の掛け算ならば、それが600桁でも古典コンピューターは瞬時にこなします。また2つの素数のどちらか一方が分かっていれば、それで割り算をすることで、もう1つの素数を突き止めることも瞬時にできます。2つの素数の掛け算は簡単だが、掛け算の答えから元の素数を見つけ出すことはできない──。この性質は、二者の間で情報をやり取りする際の強固な暗号作成技術に応用することができ、現在のインターネット通信にも広く使われています。私たちが安心してインターネットで買い物できるのも、素因数分解を使った暗号は誰にも破られないと考えられてきたからです。 ですから、もし本当に量子コンピューターで素因数分解ができてしまったら、インターネットの安全性は根幹から揺るぎ、社会が大混乱することになります。このためショアの発見は多くの研究者の興味を引きつけ、量子コンピューターの研究が一気に加速することになりました。幸いなことに(?)、現在ショアのアルゴリズムを演算できる量子コンピューターが完成するまでは相当大変な道のりであることが分かっていますが、来たるべき「Xデー」に備え、より安全性の高い量子インターネット(※注2)や量子暗号などの研究も行われています。 (※注2)量子インターネット…量子力学の法則を活用したインターネット