都立病院の「独法化」 何が変わるのか?
私たちにとって命の拠り所である病院。なかでも公立の病院は民間では採算が取れない部門を持つなど、重要な役割を果たしている。一方、東京都は都立病院と公社病院など計15の機関を2022年度から独立行政法人「都立病院機構」(以下、機構)に移すという。資材調達や人事制度などを柔軟に設定できるので各病院の収支改善が見込めると都は理由を挙げるが、本当だろうか。独法化することの意義や課題について考えたい。(行政学者・佐々木信夫中央大名誉教授)
都が100%出資する機構の傘下に入るのは、都立が駒込(文京区)や広尾(渋谷区)など8病院、公社が荏原(大田区)などの6病院と都がん検診センター(府中市)だ。 これらの病院は、精神や災害医療など一般の医療機関では対応の難しい分野も担うので、不採算に陥りやすい。都側は独法化によりその赤字体質の改善を図ろうとしている。具体的には、事務の効率化や集約、医薬品の共同購入などによるコスト削減で赤字体質を変えられると考えており、かつ独法化により専門性の高い医療人材の安定的な確保・育成も大義として掲げている。 都立病院の会計はすでに独立採算制を求める公営企業会計として扱われている。ただ入院や外来の収益だけで支出を賄うのは難しく、年間収入の約4分の1に当たる400億円近くは都が支出している(令和2年度当初予算ベース)。 都立病院の長年にわたる赤字体質を何とか変えられないか、20年前の石原慎太郎都政の「都庁改革アクションプラン」(2000年)以来、都立病院の経営のあり方が検討されてきた。小池百合子都政はこの1月に有識者会議から「都立病院の独法化が望ましい」という提言を受け、独法化に向けた条例を提案した。 だが、直営だから赤字体質となり、独法化だと黒字体質に変わるとなぜ言えるのか。最近の都の病院会計をみると、収入の約72%が患者負担の料金収入で、支出の約96%は給与費、材料費、他の経費で占められており、収支の改善はどれだけ収入を上げ、支出を削減できるかに掛かっている。 例えば令和元年の自己収支比率77.00%を翌2年には77.20%に高め、病床利用率を76.90%から89.50%に高める経営目標を定めて取り組んでいるが、独法化するとこれの何が変わるのかしっかりとした説明が求められよう。