花開くか「行政DX」? デジタル庁発足に期待と不安
「思い切ってデジタル化を進めなければ、日本を変えることはできない」―― 「デジタル化構想」を推し進める菅義偉首相は9月1日のデジタル庁発足式でこう挨拶した。筆者は日本がデジタル後進国から脱し、先進国にキャッチアップする方向に異論はない。しかし、日本の官僚制には縦割りに代表される構造的な問題がある。「デジタル化」というオブラートに包むと途端に全ての課題が解決するかのように聞こえるが、そう単純ではない。(行政学者・佐々木信夫中央大名誉教授)
20年以上前からあったDX構想
情報技術の専門性に欠ける役所風土を変えるため、菅政権肝いりで進められている行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)。その司令塔となるデジタル庁にはデジタル監(事務次官級)など民間技術者200人を厚遇で迎え、陣容は600人規模だ。年間予算は約5400億円。千代田区紀尾井町の民間高層ビルに家賃年間約9億円を払い、首相直轄の組織として設置される。
日本は行政DXの遅れが指摘されてきた。記憶に新しいところでは昨年5月、当時の安倍晋三政権はコロナ対策の特別給付金として国民1人当たり10万円を配った。しかし、紙ベースで動く役所、特に市町村現場でのもたつきが露呈し改めてデジタル化の必要性が浮き彫りになった。そうした背景もあり、菅政権はデジタル庁創設に飛びついた。政府の資料にも「新型コロナウイルス対応においてデジタル化の遅れ等が顕在化(した)」と記載されている。
もとより、デジタル化構想は今回、突然湧き出た話ではない。 歴史は20年前にさかのぼる。当時の森喜朗政権(2000年)は、「e-Japan戦略(電子政府構想)」、「IT国家戦略」を発表し、「我が国は、すべての国民が情報通信技術 (IT)を積極的に活用し、その恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向け、早急に革命的かつ現実的な対応を行わなければならない」としていた。「5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」と意欲的な言葉も並んでいた。 今のDXの動きはこの流れを汲むもので、これまで遅々としていた遅れを取り戻そうとして始まるのがデジタル庁と見てよい。