横浜市長の権力と魅力 なぜ多彩な顔触れが立候補するのか
横浜市長選の投開票が8月22日にある。立候補者には4選を目指す現職のほか、元大臣、知事経験者、国会議員、元大学教授、市議、会社社長など多彩な顔ぶれが揃う。神奈川県選出の菅義偉首相の地盤で状況によっては政局に繋がるとの見方もあるほか、全国はカジノを含むIR誘致の論争に注目している。ただ、これだけ多彩な顔ぶれが横浜市長というポストを目指す大きな魅力は、何と言っても日本最大の市のトップとして大都市の舵取りに力を発揮してみたいということではないか。横浜市長の権力と魅力について考えてみよう。(行政学者・佐々木信夫中央大名誉教授)
神奈川県と“同格”?
日本で初めて「市」ができた1889(明治22)年から東京、名古屋、京都、大阪、神戸などと並んで日本を代表する市となった横浜。現在の人口は378万人(2021年7月)と四国4県の総人口約365万人を上回る規模だ。横浜市は神奈川県人口(924万人)の4割を占め、県庁所在地でもある。川崎(154万人)、相模原(72万人)と並ぶ「政令指定都市」(以下、政令市)であり、県行政と基礎自治体行政の機能・権限を併せ持つ。
横浜、川崎、相模原の政令3市で神奈川県人口の65%を占める。3市へ県の権限は概ね移っており県行政の空洞化は著しい。他の県知事と比べ、神奈川知事は“3分の1知事”と見ることもできる。 横浜市の予算は一般会計で約2兆円(21年度当初予算)。これは、神奈川県と同格の規模であり、47都道府県の予算と比べても5番目に相当する予算規模だ。職員数は教員を含めると4万4千人に及ぶ巨大自治体である。
「横浜市」ってどんな場所?
少し歴史と地政学上の位置を確認しよう。 市制が施行された1889年当時、横浜の市域面積は横浜港周辺の5.4平方キロメートルにすぎなかった。その後、6次にわたる拡張と埋立てにより約80倍に広がり、現在437.71平方キロメートル(2020年)となっている。 人口の膨張も著しい。市制施行時は約12万人だったが、東京圏の拡大に伴い増加の一途を辿り、現在は378万人と30倍に膨れた。人口集中地区の人口も東京23区に次いで多い。市の面積は大阪市の約2倍、名古屋市の約1.5倍と広く、なおかつ市内に山地や湖など居住に適さない地域は殆どなく良好な住宅地が多い。市内全域が東京都心への通勤圏内であるために東京のベッドタウンとして市内の多くが宅地化されたという背景を持つ。 ヨコハマを外からみると国際文化都市、観光都市として吸引力が高いように見えるが、実際の横浜市は東京の衛星都市・ベッドタウンとしての側面も強く持つ。その証拠に昼夜間人口比率は東京区部や大阪市が周辺からの吸引力が強く130を超えるのに対し、横浜市は91.7(2015年)に止まる。いわゆる「横浜都民(神奈川都民)」が多い。争点とされるカジノなどIR誘致で横浜経済の吸引力を高めていこう、という理由もその辺にあるのかもしれない。