都立病院の「独法化」 何が変わるのか?
独法化のメリット、デメリットは?
では独法化はどんなメリットがあるのか。行政分野にもよるが、一般的にいうと(1)意思決定の迅速化(2)安定した専門的な人材確保(3)弾力的、効率的な経営管理(4)目標設定や業績評価が可能(5)経営の黒字化が見込まれる――などの点が挙げられる。 一方で、(1)不採算部門が切り捨てられる(2)効率性を求めるあまり過重労働を現場に強いる(3)事務負担の増加(4)非公務員化に伴い職員の離職が増える(5)経営改善命令など行政の関与が増える――といったデメリットも指摘されている。 全国の公立病院はそれぞれの地域医療確保のため重要な役割を果たしている。だが近年、その多くでは経営状況が悪化し、医師不足に伴い診療体制の縮小を余儀なくされるなど、その経営環境や医療提供体制の維持が極めて厳しい状況になっている。公立病院が今後とも地域に必要な医療を安定的かつ継続的に提供していくためには、多くの病院で、抜本的な改革が必要となってくる。 今回提案されている都の都立・公社病院の独法化も動きとしては全国に符合している。都では都立病院等の独法化で15病院を一体的に運営し、そのスケールメリットを最大限に生かしながら、人材の確保・育成、医療提供などを的確に行えるとしている。 一方で、独法化により現在の医療水準、不採算医療が継続される保証はなくなり、地域医療が崩壊するのではないか。医療従事者を病院ごとに採用するので繁閑に応じた職員の配置転換が難しくなり、法人化のスケールメリットは働きにくく、医療サービス全体が相対的に劣化するのではないか、という指摘も労組や専門家らからはある。
都立病院の独法化に伴う課題
医療には多額の資金や高度な医療サービスが必要となり、市場メカニズムに馴染まない「不採算部門」でも行政がやらなければならない分野はある。それは都民の安心、安全を確保する「必要コスト」と考えることはできないだろうか。 都内にある国立の東京医療センター、東京病院、村山医療センター、東京医科歯科大学病院、東京大学医学部附属病院なども既に独法化している。だが、都民のセーフティーネットの確保は自治体行政が果たすべき役割であり、全ての都立・公立病院を一律に独法化すべきかには慎重な判断がいる。 また、筆者は病院(機構)運営のチェック機能についても懸念点がある。 例えば、機構の理事長などは知事が任命するが都議会による行政のチェック機能がないがしろにならないか。また、情報の開示は努力規定で住民の監査請求権は規定されていないため、「密室」で知事・理事長らが物事を決めてしまう恐れはないのか。過去には「第3セクター」の乱脈経営の失敗例が数多あるが、その二の舞にならないのか。 現在、全国の都道府県立病院のうち、42病院が独法化されている。これらの疑問や不安に対し、都は丁寧、かつ納得感のある説明をすることが求められている。失敗事例についても隠さず、つまびらかに公開する必要がある。