加害者が賠償金を払わない――。犯罪被害者は泣き寝入りの現実 国の乏しい経済支援に立ち上がる弁護士ら
こうした岡村さんらの提言に政治はどう向き合うのか。実は政治家の側も動き始めている。昨年4月、自民党に「犯罪被害者等施策の検証・推進議員連盟」が発足したのだ。
犯罪被害者の支援検証へ自民党「議連」が始動
議員連盟の会長代理を務める小泉進次郎衆院議員は、議員会館の自室で岡村さんたちの提言に全面的に賛同すると語った。ただし、それを実現するには法改正が欠かせない。そのため自民党の司法制度調査会にプロジェクトチームを立ち上げることになった。 「これは大きな一歩です。党内の正規のルートに乗ったということだからです。政府の『骨太の方針』にしっかりと入れ込むためにスピード感を持ってやっていきます」 議員連盟では、犯罪被害者の一時的な避難場所(ホテルなど)の借り上げやハウスクリーニングにかかる費用などの支援のあり方についても議論を進めているという。 「議員連盟では警察庁に47都道府県ごとの支援の実態を調査して明らかにしてもらいました。支援状況には大きな格差があったが、概算要求で予算を計上できた。予算が成立すれば、これまでのように『予算がないからできない』ということにはならないはずです」 経済的な支援については政治が動き出した。だが、単純に金銭的な支援だけですべてが解決するわけではないところに、犯罪被害者の苦しさがある。
「そろそろ落ち着いた?」悪気ない一言でも……
冒頭の栗原一二三さんは、事件のショックに加え、現場検証の立会人として時間を奪われたこともあり、職場復帰するまでに約50日間を要した。しかし、会社では「前例がない」と公休扱いにされず、休んだ期間は有給休暇を充てることを余儀なくされた。職場に戻った後には周囲から心遣いを受けたが、それもまた苦しかった。 「事件の重大さゆえに、なんて声をかけたらいいのかと戸惑う気持ちが痛いほど伝わってきました。ある人から『そろそろ落ち着いた?』と声をかけられました。悪気はなかったのでしょう。私は『いや、一生落ち着かないかも……』と言いました」 時間とともに事件は風化していく。ある日、上司に裁判のために欠勤することを伝えると「わかりました。あくまでも業務に支障のない範囲で」と冷たく返された。 「これだけのことが起きていながらしょせんは他人事なのかな、と思った瞬間です。もう私個人の出来事としてこれを消化していくしかないなと思いました」 では、周囲はどう犯罪被害者に関わっていけばよいのだろうか。栗原さんは言う。 「被害者にしっかり向き合って声を聞いてくださること。それが支援なんです」 いつでも誰でも犯罪被害者になりうる。それを自分事と捉え、犯罪被害者を孤立させないよう支え合っていく。そんな社会にしていくことを彼らは望んでいる。
--------- 小川匡則(おがわ・まさのり) ジャーナリスト。1984年、東京都生まれ。講談社「週刊現代」記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。政治、経済、社会問題などを中心に取材している