加害者が賠償金を払わない――。犯罪被害者は泣き寝入りの現実 国の乏しい経済支援に立ち上がる弁護士ら
加害者「2600億円」、被害者「10億円」という支出の差
父親など主たる稼ぎ手が殺された、あるいは、重大な傷害を負わされた場合、家族は金銭的にも大きな損害を被る。しかし、国の支援は極めて乏しい。 犯罪被害者への経済的な支援として古くからあるのが「犯罪被害給付制度」だ。1981年に法律が施行され、遺族給付金の場合は最大2964万5千万円(2022年時点)が支給される。しかし、給付額は事件当時の収入状況など様々な条件で変わり、実際に受け取れたとしても、その金額は微々たるものであることがほとんどだ。支給決定までの時間も平均で7~8カ月かかり、迅速性に欠ける。 2021年度に支給されたのは288人。殺人事件だけでも近年900件前後あることを考えると、支給条件に大きな制約があることが分かる。支給総額は約10億800万円で、単純に一人当たりで割るとわずか350万円に過ぎない。申請したものの不支給となったケースも46件あった。
法務省の予算を見ると、加害者に対して使われる費用は刑務所や更生保護など約2600億円。一方で被害者に対しては、犯罪被害者等給付金の約10億円以外は、事件直後に一時避難で使うホテル代などごくわずかな費用のみである。加害者と比べ、被害者への支出はあまりにも少ない。 なぜ国は犯罪被害者に対して十分な給付をしないのか。 それは、犯罪被害者等基本法の前文に「犯罪等による被害について第一義的責任を負うのは、加害者である」と記されているように、加害者に直接請求すべきだという考え方が基本にあるからだ。だが、加害者が被害者に賠償金を支払うのは極めて現実性に乏しい。 日本弁護士連合会が2015年に行った調査によると、加害者から被害賠償を受けた事件被害者は殺人で3.2%、傷害致死で1.4%とごくわずかだ。司法統計によると、刑事事件の裁判で被告に質問できる被害者参加制度の利用は2019年には1500件程度あったが、判決を出した裁判所が刑事事件に引き続き損害賠償の審理を行う制度で実際に賠償命令の決定が出たのは300件程度だったという。加害者に賠償金を支払わせることがいかに困難かがうかがえる。 こうした被害者の境遇に対して、改善を求めて法制化などの声を上げてきた弁護士がいる。東京都の岡村勲さん(93)だ。岡村さんは2004年に成立した犯罪被害者等基本法の生みの親でもある。立法に動くきっかけは、自身が犯罪被害者になったことだった。