加害者が賠償金を払わない――。犯罪被害者は泣き寝入りの現実 国の乏しい経済支援に立ち上がる弁護士ら
「何の権利もない」被害者になって初めて気づいた弁護士
「私は弁護士として40年近く活動し、日弁連副会長まで務める立場でした。そんな自分でしたが、犯罪被害者の立場を理解していなかった。自分が犯罪被害者になって初めて被害者には何の権利もないことに気づいたのです」 丸の内の法律事務所で岡村さんは語った。
1997年10月、妻が殺された。犯人は山一證券の元顧客で、株式運用で多額の損失をしたことから同社に不当な要求をしていた男だった。男は、同社の代理人弁護士を務めていた岡村さんを逆恨みし、岡村さん宅を襲撃、応対に出た妻を殺害した。 それまで弁護士として何十年も法廷に立ってきた岡村さんは、当事者となって初めて、犯罪被害者遺族がいかに裁判で蚊帳の外に置かれているかを知った。当時の制度では裁判に参加できるわけでもなく、傍聴すら一般の人と同様に傍聴券の列に並ぶありさまだった。 2000年、岡村さんは全国の犯罪被害者と共に「全国犯罪被害者の会(あすの会)」を設立、主に法廷における被害者の権利の確立に取り組んだ。2004年に犯罪被害者等基本法が成立。刑事裁判への被害者参加制度も実現した。 一定の成果を残したことから、あすの会は2018年に解散したが、それから4年経った昨年3月に岡村さんは再び「新全国犯罪被害者の会(新あすの会)」を設立した。犯罪被害者に対する経済的な補償については不十分なままだったからだ。 岡村さんは、日本では犯罪被害者に対する経済的な補償があまりに低いと訴える。 「日本は国に支払いの義務はないとして、わずかな見舞金を出している程度。しかし、ドイツでは犯罪を起こさせてしまったのは国の責任として、軍人の恩給と同じくらい支給しています」 表面上見えにくいが、犯罪被害者は事件によって金銭的な支出を強いられるケースが少なくない。新あすの会の設立大会で自身の体験を語った長野県の市川武範さんの話が典型的だ。
2020年5月、市川さんの自宅に暴力団の男が押し入り、長女と次男を銃で殺害した。自宅は血の海と化し、心理的にもつらかったため、一時的にホテルに避難した。住宅ローンが残る自宅は、破壊された窓の修繕や特殊な清掃が必要になった。だが、清掃が行われたのは上限額13万円までで、今も血痕の一部が残ったままだ。 こうした支援は都道府県によって対応がバラバラで、ほとんどは自己負担というのが実態だという。だからこそ岡村さんは、損害賠償を支払ってもらう権利を国が買い取る制度の導入を求めている。 「民事訴訟を起こしても、加害者が支払うことはまずなく、被害者側は泣き寝入りです。でも、これまでの判決事例から、事件によっておおよその損害賠償額は算出できる。であれば、損害賠償を支払ってもらう被害者の権利を国がまず買い取って、被害者に賠償金相当額を支払う。その上で、国が加害者に取り立てる。そんな制度の導入を求めています。取り立てができない場合や、被疑者不明の場合は国が負担をするようにすべきだと思うのです」