「免税事業者のままだと取引から排除されるかもしれない」ーーインボイス制度開始で予想される混乱
今年10月から消費税のインボイス制度が導入されることになっている。フリーランスや中小事業者から反対の声が上がっているが、そういった人たちに仕事を発注する側にも負担はのしかかる。「導入後の事務負担により、あらゆる企業で大混乱が起きる」という指摘もある。そもそもインボイスとは何か。どんな混乱が予想されるのか。(取材・文:鈴木紗耶香/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「発行事業者にならないなら外注費から10%引く」
都内に住む中村さん(仮名、50代)は、大手住宅機器メーカーの子会社Aから、アフターサービスの仕事を受注している一人親方だ。別業界での仕事もいくつか経験したが、この仕事の水が合っていると感じており、昨年で26年目となった。 昨年7月、中村さんは、A社から一枚の書面を手渡された。そこには、「協力事業者には、来年3月からインボイスを発行していただくことを基本方針とする」と書かれていた。 「会社は、インボイス発行事業者にならないと、契約を更新しない方針のようです。長く仕事をもらってきた会社ですが、インボイス発行事業者になるか、3月で契約を更新しないか、悩んでいます。仲間は、発行事業者にならないのならば、外注費から消費税分10%を引くと言われたそうです」
中村さんが悩んでいるのは、インボイス発行事業者になるには、「課税事業者」となって、これから毎年消費税を納税しなければならなくなるからだ。 中村さんの売上は年間約550万円だ。売上1000万円以下の事業者は、「免税事業者」として、消費税の納税を免除されている。 中村さんが試算したところ、課税事業者になれば、年間約22万円の消費税を納めなければならないことがわかった。消費税は一括納付が基本で、払えない場合は延滞税が加算される。放っておけば資産を差し押さえられる。 経理作業の負担も増える。所得税に加え、消費税の確定申告もやらなくてはならない。 「労力を注ぎ込んで手取りを減らしてまでインボイス発行事業者にならなければならないなんて、割に合わなさすぎます。でも、会社に『お願い』されたら、逆らえるわけないですよ」