なぜ今、木造高層ビルが建ち始めているのかーー日本が抱える国家的な森林問題 #なぜ話題
木造高層建築に不可欠な森の循環
林業振興、環境貢献と、木造高層ビルの意義、必要性は、さまざまな面があるわけだが、木質が発する感覚的効果もまた小さくはない。木材特有の断熱性、調湿性、そして木の質感が持つぬくもりは、やはり、どこか人間に安心感を与えてくれる。もちろん、都市景観においても、木造高層建築は人々に視覚的なやすらぎを与えてくれて、その美的アドバンテージは計り知れない。 不動産会社「ヒューリック」は、2021年10月、銀座8丁目に「銀座の中心に森を作る」を開発コンセプトとし、日本初となる耐火木造12階建ての商業施設「HULIC &New GINZA 8」を竣工した(設計・施工/竹中工務店)。福島県産のスギを中心に使った木造+鉄骨造のハイブリッド建築だ。外装に木材を使用し、柱や梁では耐火集成材を用いて、構造材だけで288㎥の木材を使用した。 ヒューリック㈱バリューアッド事業部アーバン事業室部長代理の寺嶋峻正さんが言う。 「1階にはアップルさんにテナントとして入っていただいたのですが、開業して2年がたちますが、やっぱり木の感じがいいという評価をいただいています。アップルさんのスタッフさんが『ここは木造高層ビルで……』とお客さんに説明しているのを見て嬉しくなりました。不特定多数の方が来られる商業施設に木材を使った意味はあるなとそのとき少なからず感動したと同時に、木材が生み出す新たな景観がテナント誘致や集客につながっていくのでは、と感じました」 ヒューリックでは、「伐採した分の木は植える」を掲げ、福島県白河で植林活動も行っている。森の循環あっての木造建築というコンセプトがここでも貫かれている。 寺嶋さんは、木造高層建築の未来についてこう言う。「スーパーゼネコンが持つ現在の木造高層建築の技術、ノウハウが中堅どころのゼネコンにも広まっていけば、だいぶ需給も変わってくると思いますし、コスト面でもかなり下がっていくのではないかと思います。いま、木造高層建築をやろうというと、ちょっと気合がいるわけですが(笑)、現在の機運が一過性のものにならずに、日本に根付いていって、ひとつの構造種別として、鉄骨と鉄筋コンクリートと木造が比べられるようになればいいなと思います。一番恐れているのは、2030年の前後って、木造ビルがたくさんできてたよね、なんか流行っていたよね、みたいなことになっちゃうことですね」 大きく踏み出した木造高層建築がこれからいったいどう進化し、どんな展開を見せていくのか、興味は尽きない。そして、それによって日本の森が生き返り、循環し、豊かになっていくとするならば、これ以上の未来はない。 --------------- 「#なぜ話題」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。SNSの普及などにより、活発に情報が消費される現代。そのような中で、話題になっている『事象』『人』『モノ』を深掘りして背景を伝えることで、日々の暮らしに活かして楽しめる情報を発信します。