なぜ今、木造高層ビルが建ち始めているのかーー日本が抱える国家的な森林問題 #なぜ話題
CO₂削減にも効果が期待できる
ビルの木質化は、こうした林業振興のみならず、もちろん脱炭素社会という環境課題にも一石を投じることになる。 昨年10月に竣工した「野村不動産溜池山王ビル」は、地下1階、地上9階の賃貸オフィスビル。鉄骨造と木質構造のハイブリッドだ。野村不動産都市開発第一事業本部建築部長の齊藤康洋さんは、こう話す。 「溜池山王ビルは、すべて鉄骨化した場合と比較して、建設時のCO₂排出量は、約125トンの削減。さらに、木材が成長段階で吸収するCO₂約285トンの固定化と、あわせて約410トンのCO₂削減効果をもたらします。環境への配慮というメリットがある一方で、課題としては、工事費の増加、テナントビルとしてのプランニングの可変性の確保、テナント工事による原状回復といった問題があったのですが、いくつかの木質ハイブリッド技術で、今回はこれらも克服できて、これからの木造高層賃貸オフィスでも展開していけると思っています」 今回、「溜池山王ビル」の施工を請け負ったのは清水建設。清水建設は、「スリム耐火ウッド」というオリジナルの木質構造部材をはじめ、耐震性、耐火性、施工性を備えた木造ハイブリッド技術を駆使し、木造高層テナントビルの先進性を示した。 もちろん、建築資材として木材がますます重要性を帯びていくことは建設会社として十分に認識している。 清水建設設計本部プロジェクト設計部2部設計長の大栁聡さんが言う。 「木質の使用量を全国的に増やしていかないと、森がどんどん死んでしまうし、担い手もいなくなってしまうという切実な思いもありました。木を使うことで新しい雇用が生まれるという循環が望ましいけれど、特定の地域で一気に木質化をやると、ハレーションが起きてしまうという状況もまたあるわけです。加工できる人材も足りなかったり、新規雇用しても次が続かなかったり。安定供給というのもこれから木質化を進めていく上での大きな課題だと思っています。約3年前には、木質建築推進部という部署も社内に新設されました。鉄骨造や鉄筋コンクリート造をつくる要領で、合理的にいかに簡単に木質化、木造化していけるかというのがこれからのテーマと考えています」