なぜ今、木造高層ビルが建ち始めているのかーー日本が抱える国家的な森林問題 #なぜ話題
日本の森林問題は国家的な課題
木造高層ビル建設が推進される背景には、日本が抱える切実な森林問題がある。 国土の3分の2を森林が占め、そのうちの4割は人工林という日本にとって、木材を利用し、森を循環させていくことは絶対的テーマであり、抱え持つ宿痾(しゅくあ)でもあった。1964年の木材輸入自由化を契機に安い外国産材の輸入が急増、「林業は儲からない」と言われ始め、「放置林」が増加。世界でも有数の森林資源は生かされず、林業もまたたく間に衰退していってしまう。しかし、2002年に国産材の供給量が底を打ってからは増加に転じ、2021年には木材自給率が41.1%まで回復。いまや森林のサイクルをいかに健全に育んでいくかが国家的な課題になりつつある。 他方、SDGsやESG投資と無縁ではいられないスーパーゼネコンや大手不動産会社にとって、「木造高層ビル」は、まさにうってつけのテーマであり、避けては通れない課題でもあった。2010年の「公共建築物等木材利用促進法」も後押しする形で、一気に建築業界の積極的な取り組みが始まる。 そして、その動きは、やがて不動産会社自らが森林を保有するというところにまでつながっていく。 たとえば、野村不動産ホールディングスでは、2022年10月から東京都・奥多摩町にて、同町が所有する「つなぐ森」の地上権を取得の上、循環する森づくりをスタートさせ、東京都と「建築物木材利用促進協定」を締結。今後30年、この130ヘクタールの森を保有し、「地産地消の循環する森づくり」を推進していくとしている。 この取り組みを企画し、何度となく奥多摩の森に通ったサステナビリティ推進部の刈内一博さんはこう説明する。 「野村不動産グループは、主要事業エリアが首都圏の上、2025年に本社移転する芝浦プロジェクトは東京湾の目の前にあることから、多摩川でつながる東京圏最寄りの森という点に意義を感じています。自然と都市とがお互いに抱えている課題は、それぞれ単独では解決できないことが多い。そのため、東京における自然環境と人間活動を総合的に扱い課題解決を図る『ランドスケープアプローチ』と呼ばれる手法を用いています」 もっとも、「つなぐ森」で生産される木材は、年間約500立方メートル。仮に丸太からの製材歩留まりを50%と見立てても、野村不動産グループが年間目標に掲げる木材使用量およそ1万6500立方メートルのわずか1.5パーセントにすぎない。 刈内さんが言う。 「この一年間、実際に取り組みを進めて感じたことは、建物に木を使うだけで解決できるような単純な社会課題ではないということでした。木を育てる人、加工する人、それを製品にする人、さらに利用する人と、サプライチェーン全体を通して、本質的に何をどのような順番で解決すべきかをしっかりと見極めながら、取り組みを進めていく必要があります。たしかに、『つなぐ森』の木材は、アイコニックな木材量ではあるけれども、脱炭素や生物多様性、人権などの国際動向を鑑み、民間企業が永く取り組める汎用的なモデルケースを目指しています」 それでも、切り出した丸太を加工所に出すことで、加工所の生産量はそれまでの3倍になる。地域には新たな雇用も生まれる。東京の不動産会社が地産地消を掲げて都内で森林を保有し始めたことの意義は深い。現在、日本の人工林の約半分が主伐期である50年生を超えている。CO₂吸収量が減少する高齢木を伐採し、新たに植えるという循環システムをつくることは急務なのだ。