「刷り込みに近い食べ物です」「生ガキを食べる時のほうが緊張します」――鹿児島で「鳥刺し」文化が生き続ける理由
厚生労働省のまとめによれば、2022年に国内で確認された食中毒発生件数は962件。不十分な加熱調理を原因とする食中毒も、全国で毎月のように発生している。命にかかわることもあるだけに、安易な獣肉の生食は避けるべきだが、日本には数百年にわたってレア状態の鶏肉を「食文化」として受け継ぐ地域がある。その1つ、鹿児島県で、鶏の生食が愛され続ける背景を取材した。(ライター:竹田聡一郎/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
頻発する食中毒で、姿を消しつつある生食メニュー
3月上旬、『東京新聞』のウェブサイトで配信された1本の記事が話題になった。 「<突撃イバラキ>カラス肉の生食文化 究極のジビエに挑戦」というタイトルで、カラス料理を食文化として紹介する内容だ。特に醤油で漬けたという「ムネ肉の刺し身」に対して、食中毒のリスクを巡って賛否の声が上がった。 それを受ける形で翌日、厚生労働省の公式ツイッターが【食中毒に注意!#ジビエ はしっかり加熱しよう】と、ハッシュタグ「#カラス」をつけてツイート。これには1万件を超えるリツイートがついた。近年のジビエブームも相まって、獣肉に対する関心の高さがうかがえる議論だった。
カラスはあくまで一例だが、食肉、魚介などの食材の生食には常に食中毒のリスクがある。 厚労省の「食中毒統計資料」によれば、直近5年間でもっとも多く確認されているのが魚介類などに寄生する「アニサキス」による中毒だ。近年、特に増加傾向にあり、2022年も566件の報告がされ、メディアなどでその存在が報じられてきた。 次いで多いのが「カンピロバクター」だ。牛肉、豚肉、そして冒頭で例に挙げたカラスも含めた鳥肉など、家禽や家畜などの内臓に潜む細菌で、感染すると下痢、腹痛、発熱、嘔吐などの症状の食中毒を引き起こす。世界中で胃腸炎を引き起こす原因菌としてはワーストというデータもあるほど人間の生活の近くに存在し、国内では2022年の食中毒事件数962件のうち、カンピロバクターによるものは185件と全体の20%近い。 もちろん、適切な処理をすればそのリスクをゼロに近づけることはできる。東京都福祉保健局は「カンピロバクターは、65℃で数分程度加熱することでほぼ死滅しますが、調理時に肉の温度や加熱時間を測ることは難しいと思いますので、肉の中心部の色の変化(生の肉の色から白く変わる)を、加熱状態を判断する際の目安としてください」という文言をホームページに掲載している。 しかし、調理過程で適切に死滅させずに提供し、食中毒を引き起こした例は少なくない。2016年に都内で行われたフードフェスでは加熱不十分の鶏肉ずしが提供され、50人近い食中毒者を出した。