「新新冷戦」の時代が来る? 中国とインド、二大人口大国の衝突を考える
国連人口基金がこのほど発表した「世界人口白書2024」によると、国別の人口はインドが1位、中国が2位で、いずれも14億人を超えています。この二大人口大国は長年、国境問題を巡って対立していますが、両国間の対立は近年激しさを増しているようです。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「二大人口大国として、中国とインドの『新新冷戦』時代が訪れる可能性もある」と指摘します。もし両国の衝突があるとしたら、どのようなものになるのでしょうか。若山氏が独自の視点で語ります。
中国とインドの衝突
インドの存在が大きくなっている。 ここしばらく、経済の世界で顕著だったのは、日本の凋落と中国の台頭であったが、それが今、中国の停滞とインドの躍進に変わっているようだ。それでも中国は軍事拡張を続けているから、海(インド洋)において中国軍とインド軍との小さな衝突が激しくなっているという。 中国とインドは陸上においても国境を接している。当然のように紛争はあるが、その国境線は、国土の大きさの割に短く、どちらから見ても辺境であり、さほど大きな問題にはならなかった。問題はむしろ海の方だろう。中国の一帯一路政策により、インド洋は南シナ海に似た状況になりつつある。 インドは、アメリカと中国のいわゆる「新冷戦」に巻き込まれ、アメリカ、日本、オーストラリアとともにクアッドの一翼をになっているが、その背景にも中国とインドの海洋衝突があるのだろう。またインドの国力がこのまま伸長すれば、二大人口大国として、中国とインドの「新新冷戦」時代が訪れる可能性もある。冷戦構造が、米ソ対立から米中対立を経て中印対立へと変化するということだ。ここでは、この二大人口大国の衝突がどういう性格のものになるか、歴史的文化的に点検していこう。
インドは「大きな文化圏」中国は「小さな文化圏」
ユーラシアの西の端(イギリス)から、東の端(日本)に至る帯状の地域に、宗教的な建築様式の分布が集中していることから、これを「ユーラシアの帯」と呼んで、古くからの文明交流の帯として設定できることはこれまでにも書いてきた。 この帯には西と東に、大きな自然の塊がある。地中海とヒマラヤ山脈だ。地中海は古くから文明の交流の場であり、ヒマラヤ山脈とそれに連なる砂漠地帯は文明交流の障壁であった。この「交流の海と障壁の山」がユーラシア各地の文化文明の発達に決定的な影響を与えている。地中海という「交流の海」は、ヨーロッパと中東とアフリカ北岸を結び、イギリスから東南アジアに至る、アルファベットと石造宗教建築を特徴とする「大きな文化圏」を形成し、ヒマラヤ山脈という「障壁の山」は、日中朝の、漢字と木造宗教建築を特徴とする「小さな文化圏」を、他の世界から隔離するかたちで形成した。 昔からインドは中国や日本と同様に、東洋あるいはアジアとされているが、それはヨーロッパからの偏見であり、文化の実態としては、インドは西の大きな文化圏の一部なのだ。サンスクリット文字も、フェニキアのアルファベットが元であり、西洋で発達した数学もインドが発祥で、アラビア文字も本来はインド文字というべきものである。建築様式や服や食の文化も、インド文化は中国よりも、ペルシャ(現在のイラン)すなわちイスラム文化に、あるいは東南アジア文化に近い。 つまりインドと中国の衝突は、歴史的な西の文化と東の文化の衝突であり、「大きな文化圏」と「小さな文化圏」の衝突である。